魔法のパン屋さん

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 そのパン屋は、パリの街にあってもおかしくないようなオシャレな外観の小さなお店だった。  水色の扉を開けて、中に入ると、エプロンをつけた若い男性がレジカウンターにいて、他の客の会計をしていた。  わ、イケメンだ……。  甘い顔だちのその人は、優しく低い声で、会計の終わった客に「ありがとうございました」と言っている。  私がまじまじと彼を見つめていると、私の視線に気づいたのか、にこっと微笑み「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。途端に照れ臭くなり、私はそそくさとトングとトレイを取ると、パンの並ぶ棚へと近づいた。けれど――。 「全然、種類がない……」  クロワッサン、ブリオッシュ、パン・オ・ショコラ、ベーコンエピ。美味しそうな名前が書かれた値札だけが置かれている。かろうじて残っているのはバターロールぐらい。  うーん、どうしよう。せっかく来たし、バターロールだけでも買って帰ろうかな。  私がバターロールの前で立ち尽くしていると、店員の彼が申し訳なさそうに謝った。 「すみません、午前中には、大体のパンが売り切れてしまうんです」 「あ、そうなんですね……。じゃあ、バターロールを買って帰ります」  私はバターロールを2つトレイに乗せると、レジカウンターへと持って行った。 「220円です。どうもありがとうございます」  お金を払って、店を後にする。  午前中でほとんどのパンが売り切れてしまうとは、なんて人気店なんだろう。
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