魔法のパン屋さん

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 私の職業は漫画家。  ブレイクしているわけじゃないけど、そこそこ仕事も貰えて、連載も抱えている。一般的なOLより、少し多いぐらいの年収だってある。取材と称して旅行にだって行けるし、猫だって養うことが出来る。  けれど、目下の悩みは、生活が不規則だってこと。 「あーあ、またできた。大人ニキビ……」  昼過ぎに起きた私は、洗面所の鏡を見て、がっくりと肩を落とした。顎にブツブツと赤いふくらみがある。 「今朝方まで仕事をしていたせいかな。それとも、夜食と称して、インスタントラーメンを食べたから?」  私が起きるのを待っていたのか、飼い猫のミケが近寄ってきて、足もとで「ニャアーン、ニャアーン」と鳴いた。「どっちもじゃない? それより早くごはん」と言っているみたい。  私は洗面所に移動すると、鏡の裏から、基礎化粧品一式を取り出した。  洗顔料を泡立て、顔に乗せる。ばしゃばしゃ洗って、水で流してすっきりさせたら、化粧水をコットンにとってパッティング。  化粧水が浸透したら、乳液をつけて、はい終了。  スキンケアをしたら、どんよりしていた顔も、ツヤが良くなった気がする。でも……。 「ニキビは、簡単に消えないよねぇ……」  ふぅと溜息をついたら、急にお腹が空いて来た。そう言えば、朝ご飯まだだっけ。あ、もうこの時間じゃ、朝ご飯じゃないか。昼ご飯。いや、むしろ3時のおやつ?  キッチンに移動し、冷蔵庫を覗き込む。  大した食材はないし、そもそも、体内リズムが狂っていて、重たいものは食べられない。 「そういえば、このあいだ、近所に新しいパン屋が出来ていたっけ」  行ってみようかな。――うん、そうしよう。  私はミケのエサ入れに、猫のカリカリを入れると、手早く化粧をして、部屋着から外着に着替え、家を出た。
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