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「青が、なくなっただと……?」
会議ホールに集まった総ての同胞が息を飲んだ。とんでもないことだ、そんなことがあってはいけない。
「どういうことだ群青」
大勢を前にして一色。壇上に立つ色は問われると演台に両手をつき、宝石のように青い髪を項垂れ、向けられる目を気にすることもなく噎び泣いた。嗚咽を漏らす声は掠れ、所々に震えている。
「先の侵攻から今日で三日、あれから青の姿を見た者もなく、戦場には赤の勢の原液の他、我らが青の原液のみ……」
「まさか、だからと言って……それこそ青の姿を誰も見ていないのだろう? ならば定かではあるまい!」
「同胞が総力を尽くしても見つからんのだ。無闇に希望を持つのは不毛。それに――」
言葉を詰まらせる群青の姿にか、これから発せられる言葉を予測してか、同じく口元を押さえる者や見合う者、室内は一瞬ざわつき、すぐに静まった。
「青程の原色が、あれだけの原液を流すとは、考えられない――……」
「そんな……」「青が斬られるなんて」「嘘だろう」途端、悲鳴に近い言葉が飛び交い騒然とした。
壇上の群青もまた、それを制するだけの気力もなく項垂れ続けている。次第に困惑は感染のように広まり、黙っている者が少数派になっていく。
「はいはい、落ち着け落ち着け皆。定かではあるまいと放ったのは君たちだろう。それに本当に定かじゃないんだ、過程も結果も見てもいなければ出てもいない。早とちるな」
大きなホールに響き渡る程立派な音で手を叩いたのは天色だった。晴天に澄んだ青がホールを見渡して揺れ、天色が向ける視線の通りに同胞が静まっていく。
「群青、君も焚き付けていないで落ち着け」
叩く手を止めると同時、天色は壇上へ振り返る勢いそのまま、機敏な動作で群青を指差した。天色のあまりに大袈裟な動きに群青すら呆気にとられ、しかし我に返ったように自身の有様に気恥ずかしさを感じた。目元を拭い、隠滅を図りながら、なかったことにしたい、とばかりに咳払いする。
「だが青が原液を流すだけでも驚くのはわかる。群青、君のその狼狽え方を見るにその上大量だったわけだろう?」
「あぁ、これまで青があれ程の原液を流す姿を見たことがない。いや、これまでどんな同胞であっても、あのような原液の量は見たことがない……」
「なるほど」確かになくなってしまう程大量の原液を流した同胞の記憶はない。いや、不定期に〝溢れる〟同胞ならばいた。青が斬られて流したであろう現役とは、その意味も理由も、色さえ違うが――
「とにかく、各方面にて更なる話し合いをしなければならない。侵攻を休めないだろう赤の勢についても考えなければならない。紺碧は瑠璃を連れて後程私の所へ来てくれ、方向性を考える。他の者も隣り合う者と話していてくれ、誰かの考えが我々の冷静となる」
群青が演台をひとつ鳴らし、会議は早々に切り上げられ次の段階へと進められる。ホール内の大勢が出入り口へ向かう流れに逆らい、立ち尽くしたまま天色は考え続けていた。
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