1/1
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

(あお)が、なくなっただと……?」  会議ホールに集まった総ての同胞が息を飲んだ。とんでもないことだ、そんなことがあってはいけない。 「どういうことだ群青(ぐんじょう)」  大勢を前にして一色(ひといろ)。壇上に立つ色は問われると演台に両手をつき、宝石のように青い髪を項垂れ、向けられる目を気にすることもなく噎び泣いた。嗚咽を漏らす声は掠れ、所々に震えている。 「先の侵攻から今日で三日、あれから(あお)の姿を見た者もなく、戦場には赤の勢の原液(げんえき)の他、我らが(あお)原液(げんえき)のみ……」 「まさか、だからと言って……それこそ(あお)の姿を誰も見ていないのだろう? ならば定かではあるまい!」 「同胞が総力を尽くしても見つからんのだ。無闇に希望を持つのは不毛。それに――」  言葉を詰まらせる群青(ぐんじょう)の姿にか、これから発せられる言葉を予測してか、同じく口元を押さえる者や見合う者、室内は一瞬ざわつき、すぐに静まった。 「(あお)程の原色(げんしょく)が、あれだけの原液(げんえき)を流すとは、考えられない――……」  「そんな……」「(あお)が斬られるなんて」「嘘だろう」途端、悲鳴に近い言葉が飛び交い騒然とした。  壇上の群青(ぐんじょう)もまた、それを制するだけの気力もなく項垂れ続けている。次第に困惑は感染のように広まり、黙っている者が少数派になっていく。 「はいはい、落ち着け落ち着け皆。定かではあるまいと放ったのは君たちだろう。それに本当に定かじゃないんだ、過程も結果も見てもいなければ出てもいない。早とちるな」  大きなホールに響き渡る程立派な音で手を叩いたのは天色(あまいろ)だった。晴天に澄んだ青がホールを見渡して揺れ、天色(あまいろ)が向ける視線の通りに同胞が静まっていく。 「群青(ぐんじょう)、君も焚き付けていないで落ち着け」  叩く手を止めると同時、天色(あまいろ)は壇上へ振り返る勢いそのまま、機敏な動作で群青(ぐんじょう)を指差した。天色(あまいろ)のあまりに大袈裟な動きに群青(ぐんじょう)すら呆気にとられ、しかし我に返ったように自身の有様に気恥ずかしさを感じた。目元を拭い、隠滅を図りながら、なかったことにしたい、とばかりに咳払いする。 「だが(あお)原液(げんえき)を流すだけでも驚くのはわかる。群青(ぐんじょう)、君のその狼狽え方を見るにその上大量だったわけだろう?」 「あぁ、これまで(あお)があれ程の原液(げんえき)を流す姿を見たことがない。いや、これまでどんな同胞であっても、あのような原液(げんえき)の量は見たことがない……」 「なるほど」確かになくなってしまう程大量の原液(げんえき)を流した同胞の記憶はない。いや、不定期に〝溢れる〟同胞ならばいた。(あお)が斬られて流したであろう現役(げんえき)とは、その意味も理由も、色さえ違うが―― 「とにかく、各方面にて更なる話し合いをしなければならない。侵攻を休めないだろう(あか)の勢についても考えなければならない。紺碧(こんぺき)瑠璃(るり)を連れて後程私の所へ来てくれ、方向性を考える。他の者も隣り合う者と話していてくれ、誰かの考えが我々の冷静となる」  群青(ぐんじょう)が演台をひとつ鳴らし、会議は早々に切り上げられ次の段階へと進められる。ホール内の大勢が出入り口へ向かう流れに逆らい、立ち尽くしたまま天色(あまいろ)は考え続けていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!