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「……そんな顔をするな、だってさ」
私が小さくもらしたそれは聞こえにくかったのか、タマ子さんは「え?」と返した。私は膝を抱えて、ローテーブルの下で足の指をぐにぐに動かしながらぼやく。
「『最近のお前の顔は暗い、そんな顔をするな』って、鈴本部長に言われちゃった」
「あら、まぁ」
「……よりによって鈴本部長に言われるなんて、サイアク」
膝に額を擦りつけると、またタマ子さんの「あら、まぁ」が聞こえた。
「やよちゃん、その鈴本部長のこと……好きなのね」
「!!」
な、なんでわかったの!?
タマ子さんを見れば、まるでにこやかに笑っているように見えるから不思議だ。うふふ、と小さく声をもらしたタマ子さんはおそらく、ウインクをしたに違いない。
「だからお肌のこと、あんなに気にしていたのね。好きな人に荒れてるお肌を見られるのは、嫌だものね」
「わっ、私べつに、あんなやつ!」
「あら、そうなの?」
「そうだよっ、人手不足相談してるのに、なかなか補充してくれない嫌なやつなんだから」
タマ子さんに誤魔化す必要なんてないのに、ついそう言ってしまった。でもきっと、タマ子さんにはお見通しなのかもしれないと、ちょっと思った。(目はないけど)
「でも、お肌のことはやっぱり悩みなのよね? じゃあ、私が美肌のアドバイスをしてあげるわ」
「え!」
「あんなにお肌のことを褒められちゃ、協力しないわけにはいかないもの。あそこで会ったのもなにかの縁、ひと肌脱ぎましょう」
「た……タマ子さん〜!」
思わずガバッとタマ子さんに抱きついてしまう。タマ子さんは腕やデコルテまで美肌だった。
「それではまず、美肌への第一歩は……」
「第一歩は!?」
「栄養満点の食事と、たっぷりの睡眠よ! さぁ、今日は私がご飯を作ってあげましょう〜!」
「たっ、タマ子さん、天使!!」
こんな素敵なのっぺらぼうに出会えるなんて、私はついてる!
その夜はタマ子さんが用意してくれたオムライスを食べて、ゆっくりとお風呂につかった。
これが、私とタマ子さんの奇妙かつ運命的な出会いだったのである。
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