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◇   ◇   ◇ 「折原さん、会議室の準備は……」 「できてます!」 「頼んでたコピーは……」 「できてます! ホチキス留めもしておいたので、チェックお願いします!」 「んー、さすが折原さん」  満足してデスクへと戻る営業マンを見送り、私はフゥと息を吐いた。さぁ、次は企画書の作成だ。  タマ子さんがいなくなってから、一ヶ月が経とうとしていた。  また一人暮らしに戻っただけなのに、心に穴が空いたように少しだけ寂しい。今思えば、のっぺらぼうと同棲するなんて夢物語みたいとも思えるけど、でも実際にあったんだから。 (タマ子さん……私は今日もつるつるピカピカだよ。お肌も、心も)  気がつけばいつも、心の中でタマ子さんに話しかけていた。 「折原、今日も絶好調だな」 「あ、鈴本部長」  そう言う鈴本部長は今日もカッコいい。  鋭い瞳を和らげて、私にとっての癒やしの笑顔を送ってくれた。 「今日はそんな折原に朗報だ」 「はい?」 「派遣社員が採用されたんだ。これでお前の仕事も、少しは楽になるだろう」 「本当ですか!?」 「ああ。今日はその人が職場の見学ということで来ているんだが、挨拶しに行くか?」 「はい、もちろん!」  思わず立ち上がった私に鈴本部長はうなずき、その派遣さんが待っているという商談ブースへ二人で向かうこととなった。  廊下の道中で、鈴本部長は派遣さんについての説明をしてくれた。 「以前、キャンセルになった派遣がいただろう? 今回の人が、それなんだ」 「そうなんですか。でもなんでまた、キャンセルした方が?」 「じつは交通事故に遭って入院していたんだ。一時は意識不明にもなっていたらしくて」 「けっこうな重態じゃないですか!」 「まあな。でも今は回復してなんら支障はないらしい。うちもまだ募集かけていたし、そのまま採用することになったんだ」 「なるほど。……で、どんな人なんですか?」 「まぁ、普通の主婦だな。けっこうベテランの派遣らしくて、事務に関することはお手のものらしい」 「へぇ、頼もしい!」 「あと、けっこう不思議な人かも。俺もさっき話したんだが、入院中のことを聞いてみたら『私、妖怪になっていたんですよ』なんて言うんだよな。ちょっと天然ぽいというか……」  天然?  そのワードに何かが引っかかったが、目的地である商談ブースに近づいてきたので口を閉ざした。
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