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第63話 村時雨(むらしぐれ)
中学校からの帰り道、急に雨が降ってきた。
冬の冷たい雨。
斑な模様を歩道に描いていた雨粒は、やがてすべてを暗い灰色に覆った。
空と同じ陰鬱な色。
傘が無い。濡れた制服と不快感が身体に纏わりついてくる。
歩道の脇にある小さな公園の小さな東屋で雨宿りをした。時折吹き抜ける風が冷たい雨粒を運んで来る。
ひとりで居ることには慣れているけど、冬の寒さは人の温もりを思い出させる。
ひとりは寂しい。
「大丈夫ですか?風邪引きますよ」
いつの間にかウトウトしていた。どこでも寝ることが出来るのが特技だけど、確かに身体は冷えきっていた。
顔を上げると西中学の制服を着た女子が居た。歩道には背の高い男子が居てこっちを見ている。
「よかったら使いませんか?」
「え?でも…」
「そしたら私、相合い傘で帰れます」
なるほどそういうことか。
「古いコンビニ傘なので返さなくても大丈夫です」
スッと傘を手元に差し出してきたから、私は受け取った。
ニコリと笑って男子のほうに行き2人は相合い傘で帰って行った。
微妙な距離感の2人。
傘の柄に名前が書いてあった。千歳。
いつか返せる日があるかも知れない。
立ち去っていく2人に軽く頭を下げ、私は家路に就いた。
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