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第70話 横雨(よこさめ)
音コンが迫っていました。大阪大会は9月中旬。まずはこれを通過しないと全国は夢に終わります。
私は中学最後にどうしても入賞したくて、夏休みはずっとピアノの練習です。
お付き合いしていた先生も、今はどこに居るのかわからない。連絡もできない。
でも入賞したら…
きっと先生は褒めに来てくれる。そんな想いが私を支えていました。
そうやって自分で立てた目標だけど、たまには気分が落ち込むこともあります。高校野球も終わったし、家に居てもピアノだけです。
ある日、私は練習をサボって自転車で街に出ました。あまりにも暑い昼下がりで、蝉の声も聞こえません。
沸き立つ入道雲が、さっきまで晴れていた空を覆い尽くし、辺りは静寂に包まれました。
雨の匂いのするひんやりした風が、やがて遠くの雷鳴を運んできました。
ひと雨来そうです。
私は道路脇の小さな公園に自転車を停めて、小さな東屋の下に入りました。
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