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初めての
私が、デートの為に、大学をサボるなんて・・・・・・・・・
病気以外で、学校を休んだ事などなかった。
両親が知ったらどうしよう・・・ああ、でも、花澄とちゃんと打ち合わせたから大丈夫。
でも、もし知れたら・・・・・
そんな罪悪感も、待ち合わせの時計台の下でジュンの姿を見た時に、うれしさで吹き飛んでしまった。
この日のために購入した洋服は、リンダと買いに行ったものだ。
家に持ち帰ってその服装で出かけると、母親に勘ぐられる。
だから、リンダに預かって貰い、リンダの家で着替えたのだ。
リンダのアドバイスで、フェミニンな総レースのブラウスに、ふんわりとしたロングスカート。
「遙は、やっぱりフェミニンな感じが良いわ。でも、可愛くなりすぎない程度に。ちょっと大人っぽい可愛さで」
というアドバイスで購入を決めた。
総レースのブラウスは、いつも自分で買う価格帯よりも少し上のもので、身につけているだけで、気持ちが華やいだ。
リンダは、メイクもしてくれた。
薄化粧だけれど、淡いピンクをベースにしていて、それでいて目鼻立ちがほどよくはっきりとしている。
舞台メイクには慣れていても、普段のメイクに不慣れな私には、とても助かった。
ジュンには、どんな風に、私は見えただろうか・・・・・・・
初めてのデートは、一緒に歩く左右の足運びですら意識して、あやうくよろめきそうになってしまった。
「可愛いね。そのブラウス。すごく似合ってる」
そう言われて、舞い上がりそうになった。
カジュアルな服装のジュンは、笑顔で、大学の事やバレエ教室の事など、話題を広げてくれて、緊張で固くなりがちな私を、上手くリラックスさせてくれた。
少し、街を散策して、それから喫茶店でお茶を飲んで、夕方からはバイトがあるというジュンと別れた。
私にとっては、夢のような時間だった。
リンダの部屋に戻ると、「どうだった?」と、軽くリンダが尋ねてきた。
リンダは、トレーニングウェアを着ていて、フロアでストレッチをしながら、私の、事細かい報告の一部始終を聞いてくれた。
私は、夢中で、ジュンがどんなに優しかったか、かっこよかったかを話した。
「あ、そうだ、これ、お土産」
私は、街で散策した時にみつけたハンカチを、リンダに渡した。
北欧風のデザインが、なんとなくリンダに似合うような気がして選んだのだけれど・・・・・・
「これは、口止め?それとも、話を聞いて貰うお礼?」
笑いながら、宙でハンカチを広げながらリンダが言った。
ちょっと皮肉なニュアンスに、高揚した気分に水を差された気がした。
「そんなつもりじゃなくて、ふっと目について、もしかしたら、リンダが好きかしらって思ったの。気に入らなかった?」
「気に入りましたよ。デート記念ね。貰っとくわ」
そう答えると、リンダは、ハンカチをサイドテーブルの引き出しに入れた。
「で、次の約束はしたんでしょう?」
「うん。明日、またお昼に会うの。明日は、大学はサボらなくても、大丈夫。あ、でも、夕方からは、ジュン君も私もレッスンだから」
「レッスンは・・・・・・サボれないわね」
「・・・・・・・」
サボれるものなら、サボりたい気持ちだった。
ジュンの事を思い浮かべるだけで、体がふわふわとしていて、頭の中から心地よい物質が広がっていくのが自分でもわかった。
胸の奥が、きゅっとする。その痛みが、心地良い・・・・
「サボれないのは、ジュンの方。ジュンは、遙よりレッスン多いし、バイトもしてるから、会えるうちに、会っておいた方がいいわよ。」
「そ・・・・・うみたいね。バレエ団のレッスンは、大変だって言ってた。バイトも忙しいって。」
「でも、次のデートの約束。明日?早くない?」
私は、顔が赤くなるのが、自分でもわかった。
「次は・・・・どこに行くの?」
「ランチを食べて、それからは決めてないわ」
「ランチを食べて・・・・・あいつは、多分、貴女を自分の部屋に誘うわ」
「え?」
リンダは、私の座っていたソファーの横に、ゆっくりと腰掛けた。
「部屋に誘って・・・まずは、キス。キスした事ある?」
これ以上無いほど顔が熱くなり、私は、「やめて」と言って、リンダから顔を背けた。
胸が、ドキドキしてきた。
ジュンに、キスを求められたら・・・・・・・・・
「練習しとく?」
リンダが、唐突に言った。
「練習?」
思わずリンダの方を見ると、リンダは少し悪戯っぽい表情を浮かべている。
「そう、予行演習。フランスだと当たり前なんだから、軽い気持ちで。ね、」
リンダの、切れ長の瞳の奥に、危うい光が潜んでいそうで、私は思わず目を伏せた。
「そんな事・・・」
「失敗したら、ジュンに嫌われるわよ。バレエ団の中には、海外から来てる人もいるから、ジュンはキスには慣れてる。遙も、どんなものか知っておいた方が良いと思うの。大丈夫。私が相手なら、ジュンは全然気にしないわよ。私にとっては、普通だから。ね。」
リンダと、予行演習?
リンダと、キス?
どうしてそんな事に・・・・・・・・
戸惑っている私の顎の下に、指を軽く当てられたと思った次の瞬間、唇を柔らかく吸われていた。
「チュッ」
と、本当に軽い音がした。
キス・・・・・・・・・・ファーストキス・・・・・・・
呆然としながら、頭がゆっくりと回り始る。
私のファーストキスが、リンダ?
さっきまで、ジュンとのデートでふわふわしていたものが、全部、吹っ飛んでしまい、私の頭は、目の前のリンダでいっぱいになっていた。
「これは、挨拶程度のキスよ。恋人同士なら、もう少し、濃厚かしら・・・・どう、試してみる?」
「ダメ・・・・ダメよ。恋人同士のキスは、本当に好きな人としたいわ」
私は、あわてて、両手で自分の口を押さえた。
リンダが、声を立てて笑った。
「そうね、相思相愛のキス・・・・それは、極上のワインのようにきっと酔わせてくれる・・・・・・・」
そう言うと、リンダが、私の目をのぞき込んだ。
「でもね、もし、そうでなかったら・・・・・・・・ジュンとのキスが、そうではなかったら、私のところへ来て。約束よ。」
私は、リンダの言葉の意味が、よくわからなかった。
翌日、ジュンとのデートで、ジュンの部屋に行くまでは・・・・・・・
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