17人が本棚に入れています
本棚に追加
解放
レッスンの後リンダの家に泊まりに行く頃を、しぶしぶ母親は、承諾してくれた。
花澄のお母さんの運転する車で、花澄とレッスンに行く途中、花澄から「帰りにうちに寄らない?」と誘われた。
多分、話したい事が沢山あるに違いない。
花澄は、もうキスした・・?
無意識に、おむすびを頬張っている花澄の唇に視線を走らせてしまい、はっとして、目を伏せる。
「ごめん、今日は、リンダと約束しているの」
「リンダと?」
花澄は、びっくりしたような顔をした。
「うん。だから、またね」
「そう・・・」
花澄は、何か言いたそうだったけれど、それ以上、言葉を続けなかった。
多分、「花澄のお母さんには聴かれたくない話」になると、察したのだろう。
レッスンの間、何度か、京子先生に注意をされた。
集中が、途切れるのが自分でもわかっていた。
意識して、リンダを見ないように・・・・でも、見ないでいるばかりも不自然。その加減が、不器用な私には出来ない。
幸い、最近は自分の恋に夢中の花澄は、何も気づいていない。
レッスンを終え、花澄と別れて、リンダと二人になる。
近所のカフェで、夕食を取ると、バスに乗りリンダの部屋へ行った。
部屋は、昨日とは、何も変わって無くて、それは当たり前なのだけれど、私は少しほっとした。
「シャワー浴びる?」
何気ない台詞だったけれど、胸がドキッとした。何だろう・・・
昨日の、リンダのキスと、リンダの台詞が心の中でリフレインして、聴いたことの無い音を奏でている。
何かを期待している私。何を?
「ありがとう。借りるわ。」
タオルと部屋着を受け取り、レッスンの汗をシャワーで流す。
部屋に戻ると、入れ替わりでリンダがシャワーを浴びに行った。
「何か飲む?ビールかワインならあるわよ・・・あ、スパークリングもあるわ。どう?」
リンダは、タンクトップに短パンという姿で、髪の毛をアップにしている。
タンクトップはノーブラで、ほとんどない膨らみの先が、かすかにわかる。
「じゃ、ワイン・・かな」
「白の甘口で飲みやすいのがあるから、飲んでみる?」
リンダが、ワイングラスとワインを両手に持って、部屋に戻ってきた。
ソファーに並んで座ると、私の体から香るボディーソープと同じ香り・・・
当たり前なのだけれど、その香りにふっと胸が熱くなった。
リンダは手慣れた手つきでワインのコルクを抜くと、グラスに注いで渡してくれた。
「ここに来たって事は・・・・・私の、言った通りになったって事ね。どうだった?、ジュンのキスは」
私は、ワインに軽くむせながら
「あんなのがキスだなんて・・・・・」
と、つい、本音を口にして「あ」と口を塞いだ。
リンダが、声を立てて笑った。
「『あんなもの』よ。特に男はね。女の体の事なんてわからない、生き物なの。それはそれで可愛いけどね。」
そう、リンダがうそぶく。
「私・・・キスって、もっとロマンティックで、なんて言うのかしら・・その・・・貴女には、子供っぽいって笑われるかもしれないけれど、私は・・」
しどろもどろになりながらも、気持ちを伝えようとする私に、リンダは妖艶な笑みを浮かべて言った。
「じゃ、そんな、遙に、男女の営みとやらがどういうのか、見せてあげましょうか?アダルトビデオ、見たこと無いでしょ?」
私は、びっくりしたけれど、思わず尋ね返していた。
「持ってるの?」
「当然よ。必要な時もあるじゃない・・・・」
「必要な時って?」
「そうね・・・・・・」
リンダは、少し皮肉めいた口調で「例えば、今日みたいな日にね」と答えながら、本棚の下の開き戸の奥から、DVDを数本取り出してきた。
「どれがいい?って言ってもわからないか・・・・・男優が、好みのタイプとか、そういうので選んで見てもいいわよ。」
渡されたDVDを、「観ない」という選択肢は、私には無かった。
好奇心と恥ずかしさに、心が、深い谷間の吊り橋のように揺れていて、そのままリンダにすがりつきたいような、そんな気持ちだったのだ。
もちろん、親が知ったらどう思うか・・・・・・・そんな罪悪感のようなものはあった。
悪い事をしている・・・の?
ううん、観るだけ。観るだけだもの・・・・・・・どんなものか知るだけ。
これは、勉強よ。そう、自分に言い聞かせる。
顔が好みの系統だったという理由で選んだ1本を、リンダが再生させ、部屋の電気を暗くした。
そして、私の隣の席に戻ってくると、緊張してこわばっている私の肩に、頭を乗せた。
「遙、力、入りすぎ・・・・・・・」
くっくっ・・・・・・と笑いながら、リンダが言った。
初めて見る、男女のセックスは、私の中にあった美化された少女漫画や本のイメージを、完全にぶち壊した。
裸の男と女が、絡み合う。
肉と肉の塊同士が、性器で繋がりその快楽をむさぼり合うのを、私は身じろぎも忘れて見入っていた。
モザイクがかかっていたけれど、男性のものが女性の入り口で出入りしていて、女性が上げ続ける声に、頭の芯が痺れるようだった。
そのうち、自分が、男優に同じ事をされているような錯覚に陥り始めていた。
自分の中心・・・・・・・禁断の場所が、うずいているような、なんだかもじもじとしてしまうような、及び腰になりそうになり、座っている姿勢を少しずらしたら、そのささいな動きにリンダが反応した。
「・・・・・・・自分で、したことあるでしょ。」
「・・・・・・・・」
部屋が暗くて良かった。
私は、ワイングラスを持つ手に、力を込めただけで、返事をしなかった。
「してたんだ・・・・・・気持ちいい事。ね、もう・・・・・」
するっと、ルームウェアのワンピースの裾から、リンダの手が滑り込んできた。
あっと思った時には、リンダは私の手からワイングラスを取ってテーブルの上に置くと、私を押し倒していて、その指が私の谷間の間をするりと柔らかいタッチで往復していた。
「あうぅ!」
私は、体が、びくっと跳ねるのを止められなかった。
こんな事・・・こんな事を、リンダとするなんて・・・・
誰かに知られたら、生きていられない!と思う反面、リンダがどうするのかを知りたくて仕方ない私がいた。
「男と女のセックスなんて、所詮はまやかしよ。愛とか恋とか嘘っぱち。同性愛こそが、真実の愛の形なのよ。それを貴女に教えてあげる。貴女を縛り付けている、色々な呪いを私が解いてあげるわ。自由にしてあげる。」
荒い呼吸のまま、リンダはささやき、弱々しく抵抗する私の手を払い、谷間に指を滑らせ続ける。
堕ちる・・・・・・・・・・・・・・
リンダが、薄い唇で私の唇を軽く挟むようにして、音を立ててキスをした。
うっすらと開けた目の前に、真剣でそれでいておき火のように熱を帯びた黒い瞳が私を見ていた。
再びリンダの唇が降りてきたとき、私は、同じようにリンダの唇を吸った。
舌を絡め、唇を巧みに動かしながら、私の欲望を煽るリンダのキスに、私の中で鎖で幾重にもつながれていたものが、徐々に緩み始めるのを感じていた。
それがとろけるように緩んでいくと、かつてない開放感を私は得ていた。
リンダの指と唇に愛撫され、私の秘部は蜜をしたたらせ、私は歓喜の声を上げる。
今までおさえつけられていた、欲望やら羞恥心やら、ずっと我慢してきていたものが次々と解放されていく心地よさと快感に、私はまるで、高い空の上に舞い上がる鳥のような気持ちだった。
この清々しさは、何?
いけない事をしているのに・・・・・・・・・・・
リンダは、感情をさらけ出す快感を、体の快感と共に、解放してくれたのだ。
私たちは、飽きること無く、朝まで二人で愛し合った。
バレエで鍛えた体は、どの関節も可動域が広く、より深く愛し合えた。
うっすらと筋の浮く筋力で、互いの体を支え合え、男女のピストン運動以外の美しい動きで、私たちはシーツの上で舞っていた。
朝日に、あたりがほんのりと明るくなるまで・・・・・・・・・・・
最初のコメントを投稿しよう!