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ミミルは体を窮屈に折り曲げて、声を上げて泣きました。
でも、思い切り叫びたかったのに、押し殺した唸り声のような音しか出ませんでした。
泣き声というのは、無理に押し込めると、体のどこか深いところに入り込んでしまって、いざ出そうとしても出てこなくなってしまうのでしょうか?
それでも、湧き水が浸み出るように、次から次へと涙が溢れて、コートの袖をぐっしょりと濡らしました。
そのままいつまで泣いていたのかわかりません。泣くのにも体力がいるものです。
涙が出尽くしたのか、それとも体が疲れたのか。お腹もギュルル、と鳴いて、ミミルはカウンターの外に出ました。
ヨロヨロと入り口のドアまで行くと、無言で鍵をかけました。この家に住むようになってから、鍵をかけたのは初めてでした。
家の奥に入って、キッチンのテーブルに座りました。
コートを着たままだったことにようやく気づいたように、無造作に床に脱ぎ捨てました。
赤いトースターが目に入ると、そういえば今日はまだ何も食べていなかったな、と思いました。
パンを焼こうと戸棚の扉に手をかけましたが、急に方向転換して、一目散に寝室に入り、ベッドに突っ伏して、わんわんと声を上げて泣きました。
さっきあれだけ泣いたのに、どうしてまた涙が出てくるのでしょうか。
涙は、今度はセーターの袖を濡らし、ベッドのシーツを濡らし、マットレスまで濡らしました。
頭から掛け布団を被って、全身の筋肉を震わせて、いつまでもいつまでも泣き続けました。
ミミルは、自分の小さな体に入っている涙なんて、たかが知れてるはずなのに、どうしてこんなに泣けるのだろうと思いました。
こんなに涙を流したら、塩をかけられたナメクジのように、小さくなって消えてしまうと思いました。
それでも涙は止まりませんでした。
太陽は西に傾き、だんだんと赤い光に変わりました。
それでもミミルは泣き続けました。
ああ、こんなに泣いたら、明日は川の水が干上がるまで飲まなきゃいけなくなるわね。メダカさん、ごめんなさい、と思いましたが、それでも涙は止まりませんでした。
空が薄暗くなって、東の森の上にお月様が顔を覗かせるころになっても、ミミルはまだ泣いていました。
ねえ、もうよしてよ涙さん。こんなに泣いたら、天の川の水までしょっぱくなっちゃうわよ、と思ったとき、ようやく涙は止まってくれました。
泣いて泣いて、泣いて泣いて泣いて。少し体が軽くなったのかもしれません。
ミミルはベッドから離れると、明かりをつけないまま、キッチンに戻りました。
キッチンはもうほとんど真っ暗でした。それでも住み慣れたおまじない屋です。
ほんの少しの光があれば、ミミルにとっては十分でした。
薪ストーブに火を入れて、鍋でミルクを沸かしました。
ご飯なんか少しも食べたくなかったのですが、他にすることを思いつきませんでした。
こんなときに食べることしか思いつかない自分が嫌でした。
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