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はにかみネコのおまじない
まだ太陽が東の空に昇る前からこのお話を始めましょうか。
もし、今あなたが住んでいる街が北にあるなら、ずっと南の方のお話です。
もし、今あなたが住んでいる街が南にあるなら、ずっと北の方のお話です。
東にあるなら、ずっと西だし、西にあるなら、ずっと東です。
そういうところに、この街はあります。
もしあなたが大きな町に住んでいるなら、それよりは小さな街ですし、小さな街に住んでいるなら、それよりは大きな街ですけど、どちらかと言えば、この街は小さい方だと思います。
だって、どんなに足の遅い人でも、半日も歩けば、端から端まで歩けてしまうのですからね。
街の東には深い森があり、西には低い山があります。南は海で、北は牧場や草原が広がっています。
街の中心には広場があって、広場の真ん中には時計台があります。
この時計台は、この街が生まれたときからそこにあって、この街のシンボルとして、街の人たちに親しまれているのですが、全く当てになりません。
というのは、この時計台にはちょっぴり寝坊助なところがあって、朝、お日様が東の森の上に顔を出す頃になっても、まだ深夜三時のところを指していたり、なんてことがよくあるからです。
でも、この街の人たちは、日の出と共に起き、日の入りと共に眠る生活をしていますから、時計の針が何時のところを指していようと、東の空にお日様が昇れば、ちゃんと朝が来たことがわかって、ベッドからモソモソと這い出します。
今、お空はまだ暗く、時計台も街の人も、とっぷりと眠っています。
ただ、街の中心にあるパン屋さんからは、焼きたてパンの香ばしい香りが漂い始めました。
そろそろお日様が顔を見せる時間でしょうか。
街の東の外れに目を移すと、森の入り口に赤い煙突を持った小さなおうちが一軒、ポツンと建っています。
レンガでできている煙突の他は、どこもかしこも木でできていて、季節の花々が生い茂る周りの風景によく馴染んでいます。
玄関の前にはちょっとした階段があって、階段を登るとテラスがあります。
ドアを見ると、そこには看板が掛かっていて、小さな子供が書いたような字でこう書かれています。
小さなおまじないから
大きなおまじないまで
おまじないのことなら
なんでもござれ
ミミルのおまじない屋
実は、ここにはミミルという女の子が一人で住んでいて、街の人たちの為におまじない屋をやっているのです。
看板にある通り、小さなおまじないから大きなおまじないまで、おまじないのことならなんでもござれの、この街唯一のおまじない屋さんです。
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