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半夏生
とある和室――。
「僕にできるでしょうか? いや……僕にその資格があるのでしょうか?」
一人の少年が神妙な面持ちで座っている。大きな木製の卓子を挟んだ向かいには、和服を着た一人の少女が相対するように座している。年の頃は少年より少し上の年代か。もしくはそのいでたちと大人びた顔つき、また落ち着いた雰囲気がそう思わせているだけで、年齢は少年とさほど変わらないのかもしれない。しかし何か思い詰めている様子の少年に比べ、目の前にいる少女のほうははるかに心に余裕があるように思えた。少女は少年の問いに穏やかにほほ笑みながら答える。
「そういうことは全て終わってから考えなさい。どうしても心の整理がつかないというのなら、これは贖罪なのだと思いなさい。神緒くんには少し酷な言い方かもしれませんが」
そう言われて少年はしばらく黙り込む。
「贖罪ですか……分かりました。そう考えたほうが僕もいくらか気持ちが楽になります。しかし贖罪だというなら僕が直接名乗り出るという方法では駄目なのでしょうか?」
「彼女の闇は、私やあなたが思っているよりもずっと深いもののように感じます。強引な方法、また短絡的な手法では、きっと彼女自身が受け止めきれずに壊れてしまうでしょう」
少年は再び黙り込む。しかししばらく思案した後で、何かを決意したようにはっきりと答えた。
「……分かりました。お引き受けします」
その答えを聞くと、少女は一呼吸置いてから言葉を発した。
「本当に申し訳ないとは思っているのです。けれど、きっとこの問題は神緒くんにしか解決できないのだろうとも思うのです」
「それは買い被りというものです」
「いいえ、あれから十年。もうそろそろ良いのではありませんか?」
「それは僕が決めることではありません」
「……そうですね」
それきり二人は言葉を発しなかった。永遠のような沈黙。各々が何か物思いにふけっているかのようだった。二人ともが、ここではないどこかに思いをはせ、その答えを探しているふうにも見えた。それはまるで行き場をなくした想いが降り立つ場所を見つけられずに、この部屋をさまよい続けているかのようだった。
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