第二章:夢解き

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 今後、ユダ国に反バビロンの動きが起きれば、自分が鎮圧に向かわされるかもしれない。同じ国民同士で戦わせるためだ。  自分はユダ国支配のための、バビロンの手駒だ。  確かに高い教育は受けさせてもらえた。  衣食住も保証してもらえた。  人質としての待遇は良かったと思う。  しかしユダ国から離れてからずっと、どことなく心が麻痺している。  心の底から嬉しいとか、楽しいとかを、感じなくなった。  何かを欲しいとか、将来こうなりたいとか考えなくなった。  憤りや悲しみがないわけじゃない。  もう感じたくないだけで、それは心のどこかに沈んでいて、冷たく凍っている。  属国ユダからの、バビロニア帝国への貢納の負担は重い。  だが逆らえば、国は滅ぼされるだろう。  この華やかな都の繁栄と、敗戦国への残酷さは表裏一体だ。  石段に座ったまま、水路(ビトク)を眺めていると、ふいに近くで犬の鳴き声が聞こえた。  気がつくと、茶色い野良犬がすぐ隣に来ていた。  小さな犬で、私を見て鼻を鳴らし尾を嬉しげに振っている。  街の野良犬は危険だ。道のごみをあさるし、夜間に人を襲うことがある。  だが目の前の犬からは敵意が見えなかった。  いたずらっぽい黒の無垢な瞳をこちらに向けている。 「よしよし。慰めてくれるんだね」  私は手を伸ばし、ふわふわの毛をもつ犬の背を優しく撫ぜた。  犬も嬉しそうにこちらの手を舐める。  餌もないのに動物が近寄ってきて、なつくのはいつものことだった。  私には不思議な能力があって、自然に鳥や動物が寄ってくる。  特に落ち込むときは、必ずと言ってもいいほど、動物を強く引き寄せてしまう。  動物のほうが純粋な分、人間よりも分かり合えるような気がした。 「私は宮仕えより、(インメル)飼いの方が向いてるのではないかな」  苦笑して、そんなことをつぶやいた。  今日は命拾いしたが、もし私の行った仕掛けが王にばれたら、今後どうなるか……。  玉座にいた、黒衣の王を思い出す。  黒髪に威圧感のあるたたずまいの、大きな(ニムル)のような男。  あの横暴な彼のことだ。  毒杯や首切りの処刑ならまだ良い方で、もっと残虐な刑が、自分に処されるだろう。 (あー、こわっ)  助かったものの、背筋がぞくぞくする思いで、内心私は震え上がった。  出来れば二度と会いたくない。  あの男の下で働くのは考えられない。
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