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第三章:届けられた荷
市街にある、日干し煉瓦で出来た小さな家に帰って、寝台に潜り込む。
昨夜はろくに眠れなかったので、あっという間に深く眠りに落ちた。
目が覚めると、部屋の小さな窓から、まぶしい光が入っていた。
太陽の上った高さから、昼だとわかる。
寝台に半身を起こし、つい首元に手をやって、胴体と繋がってるか確認してしまう。
「生きてる……」
呼吸を深くし、ゆっくり吐く。
安堵のため息をつくと、自分が無事だとやっと信じられた。
命は繋がったとはいえ、処刑寸前はトラウマになりそうだった。
安心した今になって、王の間で押し殺していた恐怖が、じわじわとやってくる。
台所の隅にある、陶器の水瓶に汲んである飲み水を、素焼きのカップに移して飲んだ。
軽食として、熟したナツメヤシの生の実をかじる。
もう王宮に行くのが嫌だな、とつい考えてしまう。
将来の職場だけど。
そんなとき、突然、玄関の扉を何度か強く叩かれる音がした。
「ベルテシャザル殿の家はここであるか!」
家の外から聞こえる見知らぬ男の声に、飛び上がるように驚いた。
急いで服を整えて玄関に向かい、扉を開ける。
そこには、王宮からの使いの者が来ていた。
王宮の印のついた服を着た、背の高い若い男だ。
彼の後ろには荷運びの男たちが、大きい蓋付きの籠をいくつか持っていた。
何だろうといぶかしげに思っているうちに、開けた扉から、半ば強引にいくつもの籠が部屋に運び込まれた。
「え? これは一体?」
私が使いの者を見ると、彼は敬礼をして答えた。
「これらを届けるようにと、王からの命令です」
「王からの? なぜ?」
理由をたずねたが、従者も荷運び人も、命令を受けただけで事情は全く知らないらしい。
彼らが帰った後、おそるおそる籠の蓋を開けてみた。
中に入っていたのは、王宮を歩いても遜色ないような立派な衣服や革のサンダル。
葦を編んだ籠の箱に、十分な量で入っている。
そのほか、革袋に入っていたのは金銀の通貨だった。
どれも、自分の身には過ぎたものだ。
しかし肝心の王からの伝言は何もない。
私だってユダ王国では、身分の高い生まれだった。
しかし華美な贅沢はしたことがないし、自分がここまで丁重に扱われる理由もない。
嬉しいとか誇らしいというよりも、王の考えが分からずに困惑してしまう。
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