第三章:届けられた荷

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 次の日。  ついに、待ちに待った文書が来た。  自宅に届いたのは、王宮からの公式文書だ。  茶色い乾燥した粘土の表面に、王宮の正式な印章(クヌック)が押されている。  嫌な予感もしたが、やっと自分の処遇が分かる期待があった。  素焼きの表面を割って、中に入れられた粘土板を読む。  中には楔形(くさびがた)文字で、もらう意味がわからないほどの、高い地位を与えると書いてあった。  配属先は王宮勤めだ。しかも王に近い場所に務めることになる。 「ひえっ」  思わず粘土板を取り落して、床で割るところだった。  ついに決定打だ。  否も応もない。王の命令は絶対だ。従うほかはない。  しばらく何も考えられなくて、無言で粘土板を棚にしまった。  ふらりと(ビートゥ)の外に出て、もくもくと歩き始める。  考え事があると散歩を始めるのは、私の習性だった。  思考に没頭してしまうと、道で誰かに声をかけられても気が付かなかったりするほどだ。  曲がりくねった路地を歩き、住宅街を抜ける。  にぎやか過ぎる市場を避けて、水路(ビトク)沿いにゆき、大橋のところまで出た。  河沿いの風は今日も涼やかで、混乱した感情と、頭を冷やしてくれる。  日が暮れる時刻だったので、葦舟(カヌー)は河から引き上げられ、人足達は仕事を終えていなくなっていた。  人気の少なくなった大橋も、もう道を閉めかけている。  防犯のため、夜は大橋の木板は外されて、門も閉じられるからだ。  帰宅時間を考えて、橋を渡るのは止めた。  道のはしで空を見上げると、夕暮れの空は燃えるように赤い。  沈む太陽が、高い空全体を濃い紅色に変えていた。  日が暮れるにつれ道も暗くなり、治安も悪くなるので、その前に帰宅するため、通行人もしだいにまばらになってゆく。  向こう岸の水路の側に建っているのは、聖塔エ・テメン・アン・キだ。  焼き煉瓦作りの巨大な塔が、夕日を受けて赤く染まっていた。
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