第三章:届けられた荷

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 数匹の水鳥が切なげに鳴きながら空を飛び、ねぐらへ帰ってゆく。  知らない異国にひとりぼっちの気分になるのは、こんな夕暮れのときだ。  バビロンはこの聖塔みたいだ。  堂々と巨大で、揺るぎがない。  帝国の力に屈することに、どこか抵抗感のある自分は、無力でちっぽけだ。  バビロンの威光に悔しいとも思う。同時に立派さに驚きもする。  小国のユダが国力でかなうはずがない。  それは分かってる。  では、自分自身は?  自分はどうしたいんだろう。  もう、船に乗って逃げたいという憧れは起きなかった。  どこか遠くへ旅をしたいとか、(インメル)飼いに向いてるかもという考えは、子供っぽい逃避だったと悟った。  何も持たない自らの手を握りしめて、心の奥で堅く誓う。  自分は出来る限りのことをするしかない。  選択肢を間違えないように、道を賢く選ばなくては、これから先を生きてゆけない。  バビロンにいて、流されたり、意志をすりつぶされて生きるのは嫌だった。  自分の内側にある、何ものにも屈しない気持ち。  それは熱い小さな火となって、自分を生かし続けている。  心の奥にある悲しみや痛みが自分を歪めないのは、この明かりがあるからだ。  本当は、王の事なんてどうでもいい。  誰かを憎いという気持ちがわかない。  人間同士が争い合うばかばかしさも、嫌というほど分かっている。  透明な水晶のように、不思議と気持ちが澄んでゆく。  明かりは結晶となって、自分の内側で輝いていた。  この心の明かりはどんな命令でも、消すことは出来ない。  たとえ王でも壊すことは出来ない。
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