第四章:聖塔エ・テメン・アン・キ

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 神殿では、まず携帯した小刀など刃物類は全て入り口で預けさせられた。  その後にエウル大神官が来て、自ら案内をすると言われたときは驚いた。  どうして大神官様が直々に来たんだろう。  しかし、そんな疑問も考えられなくなるくらい、階段登りの洗礼は厳しかった。  焼き煉瓦作りの段を登るごとに、しだいに吹き付ける風が強くなってくる。  完全に外の吹きさらしの階段だからだ。 (まるで空に登ってゆくみたいだな)  下の方を少しだけ見てみたいと思ったが、一緒にいる若い神官から、見ないほうがいいと言われた。 「初心者なら後ろを振り返らないように。少し前を見て一定の速度で登るのが安全です」 「あ、はい……」  風にあおられたり、ふらついたら危険なんだろう。  言われる通り、前を見てひたすら足を動かして、無心に登る。  息も上がってきたころ、長い直線階段が終わった。  三層目の入口前には、広い平坦な場所があった。  そこまでたどり着き、やっと息をついた。  一方、老年のはずのエウル大神官は、まだまだ元気そうだ。 「ここでいったん、休憩にしますかの」  彼の言葉にありがたく思って、私はうなずいた。  息を整えて、汗をぬぐう。  こんなに高い建造物はメソポタミア(いち)だろう。いや、世界一かもしれない。  バビロンの高い技術力を感じる。  エルサレムのソロモン神殿も、内部を金張りをしてあって、決して貧素ではなかった。  それでもこの塔の前では、自分がひどく田舎者のような気持ちになってしまう。  休んでいると、先ほどの若い神官が皮の水袋をくれた。落ち着きのある様子から、自分より五歳ほど年上に見えた。  少し飲んで、喉の乾きを落ち着かせる。 「ここからなら下を見ても大丈夫ですよ。風が強いですから、あまり端には寄らないように」  神官からそう言われて、やっと街のある地面の方を見下ろしてみた。 「うわ!」  思わずびっくりした声が出た。  まるで鳥の視点だ。
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