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第一章:玉座の狂気
都の北部中央、南の第三宮殿。
緑の木々が植わった中庭に面したところに、広々とした王の間があった。
王宮の中で最も豪華で、壁は濃い青をはじめ、色とりどりの美しいタイルで飾られている。
王の間にいる人数は、兵を除くと、三十名ほどだった。
朝一番に王の命で、招集がかけられた者たちだ。
王宮の学者、法術士、魔術師、天文学者、占星術師、祭司などだった。
皆、胸に右手を当てる恭順の姿勢をとり、頭をたれ、床にひざまずいていた。
窓のない王の間は薄暗い。
その場にいるほとんどの者が、死を覚悟していた。
それは、先日に王の出した命令が、異常なものだったからである。
王は近頃ずっと眠れず、また眠ると何度も同じ夢を見るという。
だが目を覚ますと、その夢を忘れてしまう。
大変に苛立った王は、ある命令を王宮内に出した。
──王宮の知者どもよ。余が見た夢を当ててみせよ。そして解き明かしをするのだ。出来ねば、そんな役たたずの頭脳はいらないであろう。全員、即刻首を跳ね飛ばしてやる。
王からの解きようもない難題が、学者たちを困らせ、また解けなかったときの重い罰が、彼らを震え上がらせていた。
手がかりもなく、王の見た夢を当てよという。
こんな無理難題が解けるはずがない。
陛下は気がおかしくなったのか。
宮廷では王は気がふれたとの噂が流れたが、表立っては誰もが口を閉ざし、王の間は静まり返っている。
王の逆鱗にふれることを、恐れたからである。
痛いくらいの沈黙が、部屋を支配していた。
そんな中、凍った空気を破るように、王の訪れを告げる従者の高らかな声が部屋に響いた。
中央の大きな扉がゆっくりと開く。
その大扉は、王と皇后しか通ることが許されない扉だ。
薄暗い王の間に、扉の外からの眩しい光が入る。
光は人影のシルエットを鮮やかに映し出した。
それは黒いローブをまとい、黒地に青の文様の服を着た背の高い一人の男だった。
服には房飾りが付き、細かな刺繍が入っている。
つややかな黒髪に、アンバーの瞳の眼光が鋭い。
精悍な顔立ちと、無駄のない筋肉質な体からは、野生の獣を感じさせる。
王の名はナブー・クドゥリ・ウスル。
別の名をネブカドネザル二世。
年齢は三十一歳。二年前に帝位についたところだった。
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