第十一章:貴重な眠り

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 しっかりそれを聞くと、黙ってうなずいた。  その方針に反論はないし、それが一番いい方法に思えた。シンアも秘術のことは知っているのか、側で聞いてうなずいている。  いい聞かすように、エウル大神官は私に注意した。 「魔物の死骸や血には呪いがかかっておる。例えばバシュムはすさまじい毒蛇よ。神をも殺す毒が体内に流れておる。くれぐれも、魔物の血には触れないように」 「はい」  私はうなずいた。  でも、そもそも血が流れるほど蛇を傷つけるつもりはなかった。 「陛下の中の銀色の蛇はすごく綺麗でした。神秘的な輝きで、淡い燐光を放っていて……。何とかして話し合って、陛下の身体から出てもらえればいいのですが」 「ベルテシャザル殿は優しいのう。優し過ぎるとも言える。そこが心配じゃの」 大神官は微笑んで言ったが、同時に心配げだった。 「魔物が美しいのはよくあること。奴らはひどく狡猾。心してかかられよ」  部屋の中央から外れた少し暗がりのところで、王はよく眠っている。  それを少し離れたところから見て考えた。  彼が寝ている今こそ、もう一回意識に潜るチャンスなんじゃないだろうか。  潜るのはほんの少しだけでいい。  あの蛇の手がかりを掴めたら。  敷物から立ち上がり、自分の推測を二人に話した。 「もしかしたら夢渡りは、陛下の父王から渡ってきたのかもしれません。二年前の父王の死によって、即位と同時に陛下に渡ってきたとしたら。その前はどこにいたのか知らないですけど」  陛下を起こさないように小声で話しながら、計画を話す。 「もう一回陛下の精神に潜ってみます。何か手がかりがあるかもしれません。陛下を起こさないようにして、身体には触れず。少し離れた場所で、ごく軽く浅い術をかけてみたいんです」  寝ている王を背にして、少し離れたところに立った。  シンアと大神官(ウリガル)に向かって、自分の戻りの補佐をお願いする。 「意識が戻る時、私の名前を呼んでください。そのほうが安定するんです。呼んでほしい名前は──……」  ダニエルです、と続いて言おうとしたときだ。  背後の真っ暗がりから、自分に向かっていきなり手が伸びてきた。  すごい速さで避けきれない。  後ろから、いきなり右の足首を強い力で掴まれて、死ぬほど驚いた。  突然のことに目を見開いて、慌ててしまう。 「え? うわ!」  指が食い込むくらい、痛いくらいの力で足首を握られて外せない。  振り向くと、掴んでいるのは寝ているはずの王だった。  床に這いつくばった姿勢で、手を伸ばしこちらの足首を掴んでいる。 (何で!? 眠っているはずじゃ……!)  私はうろたえた。全身にぞっと震えが走るような、ものすごく嫌な感覚がした。
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