第十二章:燃える柴

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第十二章:燃える柴

 王は顔を横に伏せ、身体はうつ伏せになっていた。  非常に暗い闇を背負っていて、表情が影になっている。  彼の口が嫌な笑みの形に動き、彼の声ではない別の声が聞こえた。  それは夢渡りの蛇の声だった。  冥界から響いているのではないかと思うほどの、低い声だ。 『待っていたぞ、ダビデの若枝』  そして王の手に触れられた足首から、自分の生命力が吸い出されるような感じがした。  全身が総毛立つような恐怖を感じ、仰天のあまり叫んだ。 「う、うわああ──!?」  その場で床にくずおれ、さらに意識が集中状態に強制的に引きずり込まれた。  逃げようと暴れたけど、その前にめまいで頭がくらくらして、力が抜けた。  がくん、と自分の意識が特殊な状態に切り替わったのが分かる。  自分の意思に反して、夢解きが始まってしまう。  身体に力が入らなくなり、意識が深く沈む。  一瞬にして世界が暗転した。  シンアと、大神官(ウリガル)が自分に向かって何かを叫ぶのを感じた。  その声も、かすむほど遠くなってゆく。  しだいに何も聞こえなくなっていった。 自分の意識はあっという間に深く潜らされた。 底のない水の中に急降下させられてるのに似ている。 息は浅く出来るけど、突然過ぎて頭がくらくらする。 見えるのは白いばかりの世界だ。 蛇に引きずりこまれたということは分かった。 眠ってる王を操り、干渉してきたのだろう。 (蛇はこんな事もできるのか) 自分よりも、人の心を操る技に長けている。 どうにかしてここから逃げたい、意識の表面に戻りたい。 触れられた箇所から、何者かが自分の心に侵入してくる。 嫌がっても抵抗しても、障壁が壊されて自我にもぐりこまれてしまう。 ひどくぶしつけで、失礼なことをされている感じがした。 本能的に嫌悪感が湧く。 大量のどろどろの黒い粘液が、自分に襲いかかってくるようだ。 これは一体何なんだ。 攻撃なのは分かる。夢渡りが仕掛けてる。 黒い泥は塊となって自分の全身にからみついてくる。 「離してください!!」 振り払うように叫ぶと、自分の内側から光がもれて、黒い泥を弾き飛ばした。 光に追われるように、黒い泥が自分から離れてゆく。 気がつくと、蛇が燐光を放っていたように、自分もまた光を持っていた。 きらきらとした眩しい明かりが、自分を守るのを感じる。 「これは…」 私は自分の手を見た。自分自身が淡く光っている。 その透明な水晶のような輝きには、見覚えがあった。
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