第十二章:燃える柴

2/4
前へ
/90ページ
次へ
 己の内側にある消えない明かり。  自分を生かし続ける、熱い小さな炎。  いつだったか夕暮れのバビロンで聖塔を眺めながら誓ったこと。  自分の自我の強さ、何者にも屈しない思い。  誰にも汚されない、宝物のような心の輝き。  眩しいまでの生きる力。  それは意識の中で、こんなにも大切なものだった。 (この光が自分を守ってくれている)  切なくなるような愛おしさを感じて、なぜか泣きたくなった。  涙が滲んだので、手でふいて、逃げ場を探す。  黒い泥を全て振り切り、底についたのか地面に着地した。  感触はしっかりした岩場だ。  息を切らしながら、ひたすら暗闇の中を走りだした。  どれくらい走っただろうか。  はあ、はあ……。  息が苦しくなってきたので、走るのをやめた。息をついてしばらく休んだあと、歩き出す。  いつの間にか、周りは暗闇だった。  意識の中とはいえ、星も月も見えない。 「ここは一体どこなんだ……」  ひとり、とぼとぼと岩場を歩いていたところ、ふと、小さな音が向こうから聞こえて来ることに気がついた。  木のはぜる音が聞こえた。植物の燃える匂いがする。  ぱちぱちとした音に、炎独特のゆらぐ明るい光が遠くに見える。 (何かが燃えている……)  顔を上げ、光の方に向かって歩いてみた。  大きな岩の間を通り、少しずつ明かりに近寄る。  岩場に一本の木、柴が生えていた。  木はあかあかとした炎を、枝に巻き取るようにつけて燃えている。  まるで炎の木のようだ。  だいだい、赤、青、紫と光の色を変えながら、美しく盛大に燃えていた。  炎は木を燃やし尽きることなく、火の粉と光明を放ち続けている。  普通の木とは全く違っていた。  荘厳(そうごん)な光が周囲全体に溢れ出している。  胸が高鳴る。  強力に惹きつけられ、目が離せなくなった。  この木は一体いつから、いつまで燃えているのか。  私は心を奪われるように、木を前に立ちつくしていた。  炎の明かりに照らされながら、不思議に思う。 (何で、このような炎の木が、こんなところにあるんだろう)
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加