第十三章:崩壊

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 信じられない思いで呆然とした。  どうしてこんなことに!  街にはいつだって人口が密集している。  戦時中ならもっと人が増えて、都市の中は混乱の極みになっているはずだ。  今見ている間にも民が大勢殺されているだろう。  見ているだけで一気に血の気が引いて、気分が悪くなった。  衝撃のあまり手も足も震えてくる。  一番恐ろしいと思ったのは、エルサレムの城壁より高く敵側の塔が組まれていることだった。  城壁の周りには、同じ高さかそれ以上に高い土塁がいくつも築かれている。  数々の攻城兵器が、城壁の内側に火矢を射掛けていた。 「これでは、内側の人間は皆殺しじゃないか!」  籠城した場合、本来は籠もる側の方が有利で負けにくい。  だが城壁からの攻撃を無効化するような、このやり方には防衛側は苦戦する。  ただならぬ執念と殺意を感じるやり方だ。  敵側は、エルサレムを本気で攻め滅ぼしにかかっている。  容赦ない攻め方に恐れをなした。  降伏の余地はなかったのだろうか。  生きて逃げれる者はいるのだろうか。  ここからは遠目だけど、都市の中は盛大な地獄絵図だろう。  吐き気と寒気で、身体ががくがく震え始めた。  口を手で抑え、目を固く閉じて頭ごと岩場に伏せた。  嗚咽と震えがおさまらない。  狼狽している私に、蛇がなだめるように耳元で話しかけてきた。 『まあ落ち着け。これは未来の話よ。ユダを攻めているのバビロニアの軍……』 「え、ええ!? では攻め手はまさか」 『そう。都を攻めているのは、そなたが仕える王よ』 「陛下が!」  それを聞いて息が止まりそうだった。  そ、そんな事って!  心の中で何かが崩壊してゆく。  自分よりも大事な何か。  大切な者が、都市が、ぼろぼろになってゆく。 「嘘を言うな!」  ついに我慢できず、叫んで身を起こした。  蛇の首根っこを掴んで、岩場に叩きつけたくなった。  だが、その前に蛇は私の肩から逃げ、するりと手の届かない場所に浮かんだ。  少し高い場所から、こちらを見下ろして眺めている。 『嘘ではない。我は嘘は言わぬと知っているはず』  それを聞いて私は怒り、青ざめ、それからうろたえた。 「それなら陛下は……。彼は戦場のどこかにいる」  私はよろよろと立ち上がった。  王に会いたい。掴みかかってでも真実を知りたい。  嘘だと言って欲しい。何かの間違いであって欲しい。  破壊と虐殺、侵略を目の前にして、心がずたずたになりそうだ。
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