第十三章:崩壊

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 蛇は探るように首を周囲に向け、それから言った。 『ふむ、王はこの場にはおらぬな。手を貸してやるから自分で観よ』  そう言って、言うとおりにやってみろと手ほどきしてくる。  唇を噛み、それから言われる通り、死に物狂いで王の居場所を感覚で探り始めた。 (陛下はここで指揮していない。前線は将軍に任せて、王の大本営は別の場所に置いているのか。どこだ!)  探し方は、蛇が教えた通りに繰り返せばいい。  移動に使った空間を曲げる水鏡の輪を、岩場の上に自分でも生み出す。  指先に念を込めて床に輪を描くことで、何度か大小の輪を練習して作ってみた。  輪を通じて必死で彼の気配を探ると、あっという間に突き止めることが出来た。  王はエルサレムから離れた土地、ハマトの地に本営を置いていた。進撃もバビロンへの退却もしやすいところだ。 「観えた。ハマトの地、リブラの町!」  それだけ言うと、ためらうことなく水鏡の輪の中に全身飛び込んだ。  また別の場所に出ることが出来たようだ。  転がるようにして、屋敷の床に落ちたのは、すぐその後のことだった。  自分は最短距離で、目標の居る部屋に飛び込んだらしい。  王の居る町にある、立派な屋敷の一室だった。  十人ほどが入れる部屋で、ランプの明かりが部屋を照らしていた。  机に椅子、様々なパピルス、地図などが置いてある。  そこで彼は一人、椅子に座り机に向かっていた。ローブは外し、黒い衣を着ていた。  瞬間的に空間を移動した私は、勢いよく床に転がってひっくり返ったところで、相手と目が合った。 「へ、陛下!」  慌てて床の上に膝まずいて手を付き、恭順の姿勢になる。  彼は反射的に剣に手をかけてから、私だと気がついたようで仰天していた。  絶対にいないはずの最悪のものを見たような顔だ。  次の瞬間に怒り、椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がった。 「馬鹿野郎! お前がどうしてここに来たんだ! ぶっ殺すぞ!」
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