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殴られも蹴られもしなかったが、それ以上の勢いで罵倒された。
部屋の空気がビリビリ震える。
その本気の叱責の激しさに、度肝を抜かれた。
「表の警備は何をしていた! 衛兵、今すぐここに来い!」
王が大声で呼ぶと、四人の武器を持った兵士が、すごい速さで扉から駆け込み、部屋の中に飛ぶように現れた。
その衛兵達の殺気立った剣幕にもびっくりした。
彼が床にいる私を指差し、指示を出す。
「取り押さえろ。こいつをここから連れ出すんだ」
一人の兵に強く肩を押さえられ、もう一人の兵士に背後から両腕を取られる。武器を隠し持ってないかどうかの調べも急いでされた。
じたばた暴れたが、強い力で抑えられて振りほどけない。
懸命にわめいた。
「ちょ……離してくださいよ!」
彼は腕を組み少し離れたところから、兵達と私の様子を見ていた。再び叱責する。
「だめだ。いいから何も見ずにバビロンの都に帰れ! 何も見るな! この屋敷だって機密だらけなんだぞ。密偵の疑いをかけられたいのか!?」
ああもう!
聞きたいことはたった一つなのに!
兵に引きずられて、部屋の外に出されそうになりながら私は叫んだ。
「ユダの町をバビロニア軍が侵略していて……。どうして!」
「エルサレムの包囲を見たのか」
うめくように王に問われ、真剣な顔で頷いた。
彼は深いため息をつき、苦々しく顔をしかめると片手で顔を覆った。
「最悪だ……。あれはこの世で一番お前が見たらいけないものだぞ」
必死になって彼に訴えた。
「どうして陛下がこんなことを! ユダの国を攻撃するなんて止めてください!」
それを聞いた王は私を険しい目つきで睨みつけた。
手で握りこぶしを作ると、近くにある机を思い切り叩き、強い口調で言う。
「ユダ国の王が、協定を破棄してエジプト側に寝返ったんだ! よりによってエジプトだぞ! 俺にだってどうしようも出来ん!」
裏切り……!
ユダ国が新バビロニアを裏切った……!
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