第十三章:崩壊

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 私は絶句して暴れることを止めた。めまいがするような衝撃を受けていた。  冷たい汗が背中を伝う。  バビロンを裏切った属国への制裁だ。恐ろしい想像しか出来ない。  王が説得するように言った。 「ユダは交流地の(かなめ)だ。エジプト(ムツリ)側に取られるわけにはいかないんだ。恥知らずのユダの王を追い詰めるのに二年かけたんだぞ。ここで逃すつもりはない!」  そんな軍事上の話を聞きたいわけではない。  私は頭を振り、嘆願するように言った。 「でも、裏切りを決めたのはユダの王でしょう。民は関係ない。殺さなくてもいいじゃないですか。止めてください!」 「だめだ。自分の立場を理解しろ。分かれ! この件に関して、お前の言うことは聞けない」 「分かるわけがないでしょう!」  精一杯全身で叫ぶように言ったあと、身体から力が抜けた。目から大粒の涙がこぼれ落ちて頬を伝う。  衛兵に向けて王が目と指で合図すると、兵が掴んでいた私の腕を離した。  放されたもののしっかり立てなくて、床にくずおれるようにへたりこんだ。  肩で息をして、立ち上がる気力もなく、床に座ったまま震えて嗚咽する。  胸が張り裂けそうなほど悲しかった。  その場で床に両手をついてうなだれた姿勢になった。 「嫌です! 誰かユダの町を助けて……!」  そうは言っても、周りの衛兵を含めて動く者は誰も居ない。  助けなんかあるはずがない。  ここは敵地だ。  ユダ国出身の自分が、よりによって今は敵の大本営の真っ只中にいる。  だんだん思考がクラクラしてきた。  陛下は敵で、バビロンは敵国になる。  親しみを感じたのは、まやかしだったのか。  この状況では自分と陛下は、敵同士なのか……。  そしてバビロン側に私がついたら、ユダ側からは裏切り者扱いになるんだろう……。
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