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右手を胸の前にあて、私が静かにうなずく。
そのまま床にひれ伏さんばかりに身をかがめ、王に向かって嘆願した。
「その前に陛下、どうかひとつお願いがあります」
「何だ。申してみよ」
「この夢占いの責任は全て私に帰してください。全ての結果は自分だけに。処刑するならば、私だけにして欲しいのです」
それを聞いて、彼は考えるように顎に手をやった。私の方をじろっと眺める。
「ふむ。まあ、いいだろう。お前が命を賭けると言うのなら、賭けてみるがいい。ただし……」
言いながら王は唇のはしを少し上げ、意地の悪い笑みを見せた。
「それほどの自信を持って言ったこと。楽に死ねると思うな」
「はい」
恐怖と同時に小さな安堵をして、私は顔を上げた。
冷たい汗が額に浮かんでいたが、ほんの少しだけ、自分は笑っていたように思う。
これで最悪の事態になっても、処刑は自分ひとりで済む。
事前に私を王に推薦したのは、高官のアリオクだ。
彼や同郷の者が連座されないのなら、それだけでも安心だ。
側にいる同郷の友人達や、部屋中の誰もが固唾を飲んで、自分を見守っているのがわかる。
もう、なるようにしかならない。
覚悟を決めて立ち上がると、王座の前に歩み出る。
ゆっくり息を吐いて吸うごとに、少しずつ力が湧いてくるような気がした。
不思議と落ち着いてくる。
うつむいていた顎を上げ、まっすぐに前を見る。
眼光の鋭い王と、目が合った。
礼を欠かないように、ゆっくりと右手を胸の前にあて、顔を伏せる。
もう一度、玉座の前でひざまずいた。
「それでは、私、ベルテシャザル、陛下の夢解きをいたします──……」
恐れ知らずにも、私はゆったりと微笑んでいたように思う。
目の前の王は、このバビロンの絶対的な支配者。
人質として、私を祖国から連れ去った男なのにもかかわらず。
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