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(成功だ。やったんだ)
信じられないような思いだった。
自分がやりとげたことがまだ現実味がない。
純粋に喜べないのは、後ろめたさか。
ほっとした顔になった臣下の者たちが、別の扉から少しずつ退出する。
私はまだ胸をなでおろしたまま、緊張からの脱力感でその場から動けなかった。
「ダニエル」
はっと気がつくと、友人のハナニヤが側に来ていた。
同郷で、私と同じ年ごろの青年だ。
彼はもう一度、私の名を小さく呼んだ。
懐かしい、私の祖国での名前で。
私の元の名は神の裁きだ。
新バビロニア帝国に強制的に連れてこられたときに、バビロン風の新しい名をつけられた。
それがベルテシャザルだった。
古い名を呼ばれたおかげで、ぼんやりした気持ちが、現実に戻る。
ハナニヤは右隣にいて、ふらつきそうな私を支え、抑えた声でこう言った。
「ダニエル、しっかりしろ。君はやりとげたんだよ」
何も返事ができず、ハナニヤと互いに目を見て、小さくうなずき合う。
心の中で神への感謝を唱えた。
まだ、心臓はどきどきしている。
夢解きは成功した。
だが私が行ったのは、本当の意味での夢解きではない。
そのことに気がついている人は、ここには誰もいないけれども。
「まさに神の助けだな」
ハナニヤはそう言って小さく笑う。
彼の他にも私と話したそうな者は数名いたが、もう今日は誰とも会いたくなかった。
昨夜は一晩中起きて、神に祈っていたので、ほとんど寝ていない。
身も心も疲れたし、早く家に帰りたい。寝台でひたすら休みたい。
いや、外の風に触れたかった。王宮からはひとり歩いて帰ることにした。
城でもある南王宮を出て、まっすぐ伸びる大通りを十分ほどゆくと、都の中央であるマルドゥク主神殿の前の広い道路に出た。
神殿を囲む塀の向こうに見えるのは、高くそびえ立つ塔エ・テメン・アン・キだ。
都で一番大きな神殿は祭儀のほか、集会場や商取引の場でもあるので、門の前の大通りは様々な人が行き交っていた。
裕福そうな商人や荷運びの者が歩いている。おそらく身分の高いものが乗った駕籠も通るし、召使いを連れた者もいれば、旅人姿の巡礼者もいる。
巡礼者が多いのは、バビロンは神殿群があるだけではなく、ナブー神殿のある聖地の都ボルシッパと繋がる巡礼路もあるからだ。
道行く人々の歩く大道りには、小さな祠や神々の銅像があり、道はタイルと煉瓦で舗装されていた。
歩きながら熱いくらいの日の光を浴びていると、緊張で冷え切った身体にぬくもりが戻ってきた。
王の間の凍るような冷ややかさが嘘のようだ。
都の喧騒や行き交う人々を眺め、やっと一息つく。
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