罪の記憶

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「──おい、こっちに来い!」 「何だ、てめぇら! びびってんのかよ!」 「おい! どうした、糞ガキどもが! さっきまでの威勢はどうしたぁ!」  今日も変わらず、暴力と暴言の世界。檻の中から伸ばされる太い腕と、耳を割るような暴言。それに晒されて震えている()()()()()。 「おい、お前だ。そこのデブ! お前だよ、お前! どこ見てんだ、このブタ! お前に決めたぞ!」 「じゃあオレは隣のチビだ! たっぷり可愛がってやるぜ!」  下卑(げひ)(わら)いを浮かべて、縮こまっている子どもたちを舐めるように見渡す。そんな大勢の男たちの視線を受けて、なかには耐えきれずに泣き出す子どももいた。 「おいおい、泣いちまったぜ! ママぁ、助けてぇってか!?」 「お前の凶悪な(ツラ)が怖いんだろうよ。おら、さっさとこっち来やがれ! 慰めてやるからよ!」 「てめぇに慰められた日にゃ、腰が抜けて二度と立てねぇだろうよ!」 「坊っちゃんが嬢ちゃんになっちまうってな!」  ぎゃははははははッ!  泣こうが喚こうがお構いなし。ここには助けなんてものはない。部屋の後ろの方で毎度その光景を見る。  気丈にも、必死に踏ん張って睨み返している子どももいる。睨んだところで怯むような奴は居ないが。同年代だったらそれなりに効果があるかもしれない。  運動、掃除、一通りの作業を見学、実践したところで昼飯だ。旨くない。質より量だ。そして残すことは許されていない。 「何だぁ、湿気た顔しやがって! 有り難いおまんまだろうが!」 「お上品なお坊ちゃんの口には合わねぇってか!」  暴言はどんな場面でも止まない。自分のペアになった子どもに、口から米粒を巻き散らかしながら罵る。 「おい、こいつ食えねぇんだとよ!」 「何だと!? オレたちゃこれしか食えねぇってのに!」 「食わねぇんならぶちかませ! 必要ねぇだろう!」  叫んだが早いか、男たちの手が子どもたちの食事が乗っているトレイをテーブルから叩き落とす。微塵も躊躇いはない。何個ものステンレスのトレイは甲高い音を立てて、床に這いつくばった。 「あ~あ、やっちまったなぁ」  自らやったくせに、男たちはニヤニヤと子どもたちの震える表情を眺めている。その中で負けじと言い返してきた子どもがいた。 「何で全員の飯を落とす必要があるんだ。食わないヤツとオレは関係ないだろう」 「あぁん? 連帯責任ってやつだよ。そのために今日来てんだろうが」 「関係ない。好きでこんなところに来るもんか」  ここに居る男たちは短気な奴らばかりだ。子どもも充分判っているだろうに、強気に出る。 「おい、てめぇらそれ片付けろよ」 「勝手に落としたのはそっちだろ。やるなら自分でやれよ」 「何だと、糞ガキ!」  見ていると、子どもの身体は震えている。その他の子どもたちも同様だ。もう落ちてるな。反論している子どもももうあと少しといったところか。  食べ終わったトレイを返却口に片付けてから、男と睨み合っている子どもの元へ向かう。気付いた他の男たちが道を開けた。男の肩を押し退けて、子どもと向き合う。 「何だよ、あんた」  見てはいたんだろう。最初からずっと部屋の片隅にいたからな。だけど、今まで一言も発してはいなかった。髪を掴み、顔を近付ける。 「やめろ! 離せよ!」  髪を掴まれて嫌なのか、子どもが暴れる。手で顔を引っ掻いてきたから片手で両手を拘束した。膝蹴りを仕掛けてきたから足の甲を踏み付けて固定した。その上で、なおも顔を近付けて目を見る。 「うるせぇ。黙れ」  子どもの目にはまだ反抗しようとする意思が見えた。手足の拘束を外して、飯が散らばったままの床に蹴り倒した。 「何しやがる!」  瞬時に喚く子どもの鳩尾(みぞおち)を踏み付ける。子どもは怒りでか顔を真っ赤にした。服が汁を吸っていく。頭の下で米粒が潰れる。さぞ気持ち悪いだろう。 「──俺はな、子どもが嫌いなんだよ。飯を無駄にする奴もな」 「落としたのはそっちだ!」 「原因を作ったのはお前らだ。だからさっさと片付けろ。このまま力を入れてやってもいいが?」  言って僅かに爪先に力を入れる。子どもは周囲を見回した。ニヤニヤ笑っている男たちと、青くなって震えている子どもたち。助けなんぞない。 「いいな。さっさと片付けろ。俺は甘ったれたガキは嫌いなんだよ」
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