雪の帝王との出逢い

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ここは自分のいた世界じゃない、どこか別の世界なのだとそう理解してしまうとどうしようもない不安を感じる。 その不安は池に張った薄氷のように俺の心を覆い尽くす。俺は一体どうすればいいんだろう。 「神子召喚の儀式が成功したものの、術者の力不足で肝心のお前の姿はなかった。どの領地も総力を上げてお前を探している。お前のその耳と尻尾こそが神子の証だ」 「……耳?尻尾?」 彼に言われてからようやく俺は自分の違和感に気付いて、近くにあった泉の水面を鏡代わりにして顔を映し込んだ。 自分自身の姿にギョッとして凍り付く――俺の頭の上に、何かが生えている。 茶色い柔らかい毛並みの耳、それから長い尻尾。フサフサした猫の耳と尻尾だ。泉に映る自分の姿を眺めていた俺は恐る恐る、自分の尻尾に触ってみた。 「ほ、本物だ……!」 尻尾は自分の意志でピクピク動かせるし、耳だってそうだ。音を拾おうと一生懸命動く。 「この世界の神はお前と近い形をしている。猫の耳と尻尾こそその寵愛の証だ。だからこの世界ではお前のようなものは神子とされ、重宝される」 ……よもや27歳にして猫耳と尻尾が生えようとは。 ショックでいっぱいな俺は溜息を吐いた、神子だかなんだか知らないが、俺はお腹が空いたし寒い。そして今不安でいっぱいだ。 「――なあ、この世界の神様って猫なのか?」 「そうだ。故に、猫に近しい生き物も神格化されている。私のようなユキヒョウや獅子の化身もな。私の名前はハーケン=アラドエル。この領地を治める者だ。お前の名前は何という?」 俺は真剣にハーケンの尻尾を見つめてしまった、左右にゆさゆさと揺れる長くて太い尻尾には黒い斑点模様がある。この世界の住人はみんなこんな可愛らしい姿なんだろうか。 ハーケンの身なりはいかにも貴族様といった様相でかっちりとした服に毛皮のマントを羽織っている。年齢は俺とそこまで変わらないだろう。 若さの中に洗練された落ち着きがある、堂々とした風格はそこいらの一般人のものではなさそうだ。 「俺の名前は高階雪弥。あのさ、ハーケンは偉いやつなんだろ?直々にこんなところまで探しにきたっていうのか?」 「……神子の存在は俺の悲願だった。他の領主がお前のことを血眼で探している、早く屋敷に戻るぞ」 「お、おい、戻るぞって俺はまだ何も……!」 「この雪の中お前は一人でどこに行くつもりだ。俺の傍にいろ」 はあ、という情けない声しか出ない。恐ろしい世界に来てしまった。俺は周囲を見渡してみる……雪に表面を覆われた林はどこからどう見ても寒々しい。 純白の光彩がキラキラと輝く。雪に音という音が吸い取られて辺りはしんと静まり返っていた。
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