手紙

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手紙

 旅先で、天気も良かったので早朝に浜辺を散歩していた時のこと。波打ち際に瓶が落ちているのが目に止まった。マナーの悪い観光客がそのままにしていったものではないらしい。違和感を覚えたのは、それが空でなく、中に小さな紙片と見られるものが入っていたためだ。気になり持ち帰って中をあらためると、それは何とも言い難いとても不思議な代物だった。 見たこともない奇妙な文字で書かれた手紙と思われるものが数枚。外国語学部の友人に見せても「専門じゃなくても何処の言語かくらいは分かるけど、これはさっぱり分からない」ということではっきりしない。誰かの悪戯(いたずら)かな、とも思ったけどそれにしては手が込んでいる気がしてそのままにしておく気にもなれなかった。 それほど使うこともなかったSNSにあげたところ思わぬ反響があって、ちょっとした騒ぎになる。 やはり悪戯だろう、誰かの、というか投稿した僕の仕掛けたというのが第一。 次は、仮名(かな)やアルファベット等の既存の文字を置き換えたものではないかという暗号説。専門家、によれば「文字の配列に一定の法則性があり、文法構造を持っていると考えられる」らしい(エントロピーが低い、そうだ)。そこで多くの人が解読に挑んだがそれが実を結ぶことはなかった。 その後も、海外の人達を含め、様々な人達が多様な手段でアプローチを続けたが、結局内容を理解することは出来ず、騒動は静かに収束していった。 その頃には、東の海の小さな島で謎の飛行物体が打ち上げられたというTVでも報道されるような大きなニュースがあって、トレンドはそちらに移っていった。 どこぞの国のミサイルだか新型兵器の実験だとかいう憶測が声高に叫ばれる中、発射されたと(もく)された島は軍事施設などないただの無人島であることがわかり、ネットでは宇宙人の仕業ではなんて説が、さして本気ともいえない温度で浮上したりもした。 ―だけど、僕は案外本当に宇宙人の仕業なんじゃないかと思っている。
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