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【星良side】
―十二月―
「うわぁ! 雪だよ。見て見て星良」
「本当だ……。珍しいね、雪なんて滅多に降らないのに」
安芸野玲子の声で、私は窓の外に視線を向けた。窓の外には、白い雪がチラチラと舞っている。
「しかしよくやるわ。この雪の中、サッカー部、サッカーしてるよ。短パンで寒くないのかな?」
「これくらいの雪ならするでしょう。野球部だって、陸上部だってしてるんだから」
私はピッチを走るサッカー部員に視線を向けた。
勿論、私の視線の先にいるのは……。
――月野先生……。
月野先生はサッカー部の顧問だ。
文化系・図書クラブの私は毎日部活はないが、放課後居残りをしては、サッカー部の練習を窓から眺めるのが日課になっていた。
「熱い視線をグラウンドに向けちゃって。星良、いい加減白状しなよ。星良の片想いの相手は、一体誰なの?」
「それは、秘密だよ」
そう、この気持ちは秘密。
親友の玲子や琴原亜美にも言っていない。
『月野先生が好き』なんて言ったら、二人に何を言われるかわからないから。
だから、こっそり月野先生を見て至福の時を過ごす。
「何度聞いても絶対に言わないからね。同じことを聞かないで」
「秘密主義者なんだから。あっ、わかった。凌賀伸だよね。二人は仲良しだもんね」
「違うよ。伸は中学の後輩だよ。家が近所なだけ」
「それだけ? 向こうはそう思ってないかもよ。ほら、凌賀がこっち見て手を振ってる。星良を見てるよ」
「ま、まさか?」
玲子にからかわれ、伸に視線を向ける。
やばっ、本当だ……。
伸と視線が重なり、私は慌てて視線を右に逸らして、グラウンドの隅にいた月野先生を見た。月野先生は伸につられて、視線をゆっくりと校舎に向けた。
毎日のようにサッカー部の部活を見ているが、月野先生と目が合うことはない。月野先生と目が合うなんて、奇跡中の奇跡なのだ。
――うわっ……。
嘘……!?
月野先生と……目が合った……。
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