【1】片想い

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 校舎とグラウンドまで距離はあるから、教室の中まで月野先生の声は聞こえないけど、月野先生が伸を呼んで注意しているのはわかる。  月野先生……。  カッコイイね。  笑った顔も……。  怒った顔も……。  照れた顔も……。  教壇に立っている時も……。  部活の時も……。  いつだって、月野先生は夜空を照らす月みたいに物静かで、キラッと輝いている。  月野先生……  ダイスキだよ……。  伝えたいけど……。  伝えられない……。  私の……キモチ……。 「星良。もう凌賀を見たから気が済んだでしょう? 駅前で抹茶ソフト食べようよ」 「あっ……うん。いいよ」  別に伸を見ていたわけじゃない。  でも玲子は完全に勘違いしている。  私の鼓動は大好きな月野先生と視線が重なっただけで、まだドキドキしてる。  いつも月野先生を見ているけど、月野先生が私を見てくれるなんて、滅多にないからだ。  あと三ヶ月で三年に進級する私達。  月野先生が三年の担任にならないかな。  このまま月野先生に告白できなくてもいい。月野先生と同じ学校にいられるだけで幸せだから。  私は机の横に掛けていた鞄を手にとり、玲子と一緒に教室を出た。  グラウンドを横ぎると、サッカー部も練習が終わっていて、雪の降る中、冷水で伸がバシャバシャ顔を洗っていた。  うわっ……寒そうだな。  顔が氷みたいにバキバキに凍りそうだよ。  伸はまるで犬みたいに、ブルブルと顔を左右に振る。その動作で顔に付いていた水滴が私に飛び散った。 「きゃあっ! 冷たいな!」 「あっ、ごめん。ちょうどよかった。星良、ハンカチ持ってない?」 「ハンカチ? あるけど……」 「タオル忘れたんだよ。ハンカチ貸して」  伸は濡れた手を私に差し出した。  寒さと水の冷たさで赤くなった指先。  凍える手を差し出すなんて狡いよ。  ハンカチを貸さないと、私が冷たい女に見えるでしょう。
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