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序章
朝日が燦々と降り注ぐ。
鳥がさえずり、蝶が舞う。
「今日も平和だわ……」
夏も近いと言うのに厚い生地の頭巾をかぶった少女がホウキを手に微笑えだ。
ここはどこかの土地のどこかにあるアパート「ムイン荘」。
少女はこのアパートの管理人のホノンである。
ホノンは潔癖症の整理整頓魔で毎日アパート内外の清掃は欠かさない。
いや、潔癖と言うのだけが理由なのではない。
実はこのアパート、近隣の住民からは「奇妙アパート」と呼ばれているのだが、
実際、15・6に見える少女が管理人と言う時点で違和感を持つのが普通だろう。
それどころか、本物かと見紛う猫耳や獣の尻尾を付けた者、どこの国の者か判別しがたい容姿の者、昼間から酒の匂いのする者なども住んでおり、時には「血が、血が足りない……」などと物騒な事を口走りながら血色の悪い顔で這うようにアパートに入る住人を目撃した近隣住民もいる程だ。
「奇妙アパートはきっとどこかの劇団の寮なのよ」
いつしか噂好きの主婦達の間ではそんな風に話されるようになった。
なってはいるのだが。
そう、本当にムイン荘は「奇妙アパート」なのだ。
住民達の半数でさえない知らない事実…………ムイン荘の床下は次元が歪んでおり魔界への道に繋がっている…………。
故に「穢れ」を出せば直ぐに魔が入り込み
この世界もろとも飲み込まれてしまう。
だから今日も管理人ホノンは少しの穢れも見過ごす事なく、そしてわずかな汚れも残す事なく、せっせとムイン荘の清掃に精を出すのだ。
「ホノさん、裏手は終わりましたけど」
ホノンがちり取りに手を伸ばした所で背後から声がかかる。
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