……今日は何の日だっけ

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……今日は何の日だっけ

 今日は四月一日。カミュルドの町は平和である。 そんな中、こんな話をしている二組がいた。 「キリル君、今日は何の日か知ってる?」 「……今日?」  青緑髪のポニーテールの少女と、白い帽子を被った青年が一緒に歩きながらそんな話をしている。 ポニーテールの少女の名前はナターシャで、白い帽子を被った青年の名前はキリルだ。 ナターシャは、キリルにふとそんな疑問を投げかけているが…… 実は、今日は何の日なのかは知っている。 そう、今日はエイプリルフールだ。別名、嘘の日。このカミュルドの町にもその風習はあるのだ。 だが、キリルは…… 「……今日は何の日だっけ」  と首を傾げていた。どうやら、何の日か分からないようだ。 ナターシャは、それを見て……あれ? となっていた。 (……キリル君なら、分かると思ったんだけど、そうもいかないみたいね)  この場合は教えてあげた方がいいのだろうか。 そんな事を、ナターシャは考えていた。 でも、どうせならキリルに何か嘘をついてから教えるのもいいかもしれない。 そう思ったナターシャは、嘘をつく事にした。 ……のはいいのだが。 一体、何の嘘をつくか決めていない。歩いているうちに何か決めなければ…… ナターシャはそう思ったので、考え出す。 (キリル君が嫌い、はあまりにもひどすぎるわね……)  そのパターンは、大好きなキリルに対し、申し訳ない気がしてならない。 それ以外のものにしよう。ナターシャは別の案を考える。 (あたしが性別が男だった、とかも無理あるし……)  自分の身体を見て、ナターシャはうーん……となった。 自慢ではないが、自分の身体は胸が少し大きい気がする。 どう見ても、これが男と思う人はいないだろう。 となると、また別の案を考えなければならない。 「ナターシャ……? あんた、さっきから何を考えてるの」  何か考え事をしているのを、キリルにバレてしまった。 無理もない。ナターシャは、ずっとうーん……と唸っていたのだから。 「……あ、ええと……」  ――どうしよう、まだ何も思いついてない。 そんな戸惑いが、ナターシャの中にはあった。 「……さっき、『……今日は、何の日だっけ』って言ったよね」 「え? そうね」  キリルは、何か言いたい事でもあるのだろうか。 そんな事を思いつつ、ナターシャはその言葉の次を待っていた。 「……あれ、嘘なんだ」 「えっ?」  それは、つまり…… つまりは、エイプリルフールなのを知っていた、という事だろうか。 「今日が、エイプリルフールなのくらい……知ってるよ」 「……キリル君に、騙されてしまったような気がするわ」 「……ごめん。あんたがどういう顔をするかな、って思って」  ププッとキリルは笑いながら、そう言う。 まさか、こんな風に騙されるとは。ナターシャは思いもしなかった。 「キリル君、ポーカーフェイスだからなかなか何を考えているか読めないわ」 「……逆にあんたは分かりやすいよね。それは相手がオレだからかもしれないけど」 「キリル君……?」  ナターシャは、キリルの方を見る。 急に黙ったので、どうしたのだろうと思ったからだ。 すると、キリルは微笑んでこう言ってきた。 「オレと出会ってくれて、有難う。ナターシャ」 「……! キリル君……」  キリルはきっと、ナターシャに出会えて…… 最終的には恋人になれて嬉しかったのかもしれない。 だから、柄にもない事を言っているのだろう。 「……今、オレらしくないって思った?」 「ううん、そんな事ないわ。とても嬉しかった」  ナターシャもキリルに対し、微笑んだ。 キリルもナターシャが好きなように、ナターシャもキリルが好きだから。 だから、彼女も彼の言葉にそう言ったまでだ。 「……あんたって……本当に……」 「……?」 「……何で、そんなに可愛いの?」  キリルが、少し顔を赤らめているのをナターシャは見た。 帽子を深くかぶりながら、照れているその姿は可愛らしい。 「ふふっ」 「……何?」 「顔が真っ赤よ、キリル君」 「……うるさい」  こんな幸せな日々が、これからも続いてほしい。 ナターシャも、キリルも、そう願っている。 今日はエイプリルフール。嘘の日。でも、今日も二人は幸せそうな光景だった。 -FIN-
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