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第二話 テロ事件の犯人
アメジストクルーズ船自爆テロ事件から一週間が経過し、犯人の顔がテレビ画面に映し出される。
『テロの実行犯は、柊木 直哉──────』
画面に映るのは見知った人物、それもそのはず、画面の男は俺たちの───
「父さん……」
───だったのだ。母は泣き崩れ、弟の勇希は困惑している。勇希にはまだ説明していなかったのだ。
『爆発の元となったのが、パイロキネシスという能力が原因と考えられており───』
テロの犯人は父さんじゃない。あり得ない。そう思うのは、家族だからとかじゃない。
先日のテレビ中継を思い出す。
『───緊急速報です。番組内容を変更してお送り致します。東京湾で寄港中のアメジストクルーズ船が爆発したとの情報が入りました。中継を繋ぎます。田中さん』
『はい。ご覧ください。東京湾で寄港中のアメジストクルーズ船が爆発したとのことで上空から撮影しております。現在、爆発は起きておりませんが、クルーズ船は炎に包まれており、生存者の確認が出来ない状態で────』
この時、テレビに映っていたのは赤い炎で、父さんが使うパイロキネシスで出す炎は、青色の炎だ。父さんは青色しか出せなかった筈だ。それは母さんも知っているはず、多分。何で父さんが犯人にされてるのか、全くわからない。
取り敢えず、勇希に説明したが、至って落ち着いていた。勇希は俺より賢い。勇希も父さんが犯人だとは思っていないらしく、あまり心配していない様子だった。だが、それよりも父さんが生きているのか心配だった。
当然、父さんのことを何も知らない世間は言いたい放題で、父さんを殺人犯扱いし始めた。そして、新聞記者やカメラを持ったマスコミ達が家にまで押しかけてきて、俺たち家族の穏やかな日常が奪われていった。
「こちら、柊木直哉さんのお宅ですよね!」
「奥さんいらっしゃるんでしょ⁉︎ 出て来てくださいよ!」
「今のお気持ちは! 被害者遺族の方々へ伝えたいことはありますか!」
まともにカーテンすら開けられなくなった。家の固定電話も鳴り止まない。買い物に行くのも一苦労だ。そして、何より───
「なぁ、おまえの父ちゃん人殺しなんだろ?」
「キャー人殺しが来たぞー! 殺されるー!」
学校にも居場所がなくなっていった。家に帰れば、人殺しと書かれた何枚もの紙が貼り付けられている。
父さんが一体、何をしたっていうんだ。どこに行っても殺人犯の子扱いされる。父さんのことを知っている俺からすれば、周りの人間たちの方が異常者の化け物に見えた。
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