雨の中の出会い

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雨の中の出会い

ザアザア。 ふと窓の外をみると、いつの間にかたくさんの雨が降り注いでいた。朝出て来たときには降っていなかったのになんだかガッカリしてしまった。しばらく降り続く雨を見ていた。このままここにいると他の人の迷惑になってしまう。そう思って、私はカバンを持って席を立った。会計をして外に出ようとすると、店の人から声を掛けられた。 「あっ、お客様。傘はお持ちでしょうか?」 「ああ、いいえ。ないです。」 「少しですけど傘の貸し出しを行っておりますので、よろしければいかがでしょうか?」 「・・・・あっ、はい。お願いします。」 「はい、かしこまりました。では、恐れ入りますがこちらにお名前とご連絡先をお願い致します。」 「はい。」 私は、店の人の厚意を受けることにした。店の人に声をかけられなければきっと走って帰ることになっただろう。気がつけば 次のお客さんが待っていた。今度は、会計をしながら傘の有無を聞いていた。その人たちは、断っていたけど聞いてもらえて嬉しそうだった。私は、タイミングを見て店の人に声をかけた。 「あの、これでいいですか?」 「はい、お待たせ致しました。ありがとうございます。では、またいつでも結構ですのでまたご来店の時にでも傘をお持ちくださいませ。」 「はい、分かりました。ありがとうございます。」 「どうぞ気をつけてお帰りくださいませ。ありがとうございました。」 カラン、カラン。 雨が降った帰り道なのになんだか嬉しくて仕方がなかった。店の人の対応が、気持ち良かったからだろう。心からの言葉であろうとなかろうと私もさっきのお客さんたちもその対応が嬉しかったのだ。だから、雨でもいい気持ちで帰れるのだろう。 そのまま気分良く帰っていると、道の向こうに小さな橋が見えてきた。橋のところには、赤い傘をさした子供が見えた。その子は、橋の隙間から顔を少し覗かせて川を見ているようだった。私は、雨足が強くなってきたので危ないと声をかけようと思った。 「君、危ないよ。だんだん雨が強くなってきたし、今日は帰りなさい。」 私は、子供が怯えないように極力優しく声をかけてみた。子供と同じくらいの目線になると、その子が女の子だと分かった。赤い傘をしていたから女の子だろうとは思っていたけどやはりそうだった。その子は、怯えた様子もなく私の話しを聞いていた。 「はい。・・・・おじさんも帰るの?」 「ああ、そうだよ。川に落ちたりしたら危ないだろ?だからおじさんもこういう橋とかには近寄らないし、近寄っても早く帰るんだよ。」 「ふ〜ん、そうなんだ。じゃあ私も早く帰る。子供の私は、もっと危ないよね。」 「ああ、そうだよ。でも、走って転ばないようにね。」 「うん。ありがとう、おじさん。またね。」 「・・・また?ああ、またね。」 その子は、走らないように早めに歩いて立ち去りました。その子が行くのを見届けると、私も家に急いだ。だが、不思議と雨が止んできた。 今日は、いいことがあったからだろうか?どきどきしながら子供に声をかけたが、嫌な顔されなくて良かった。もし、声をかけなかったら、あの子はどうなっていただろうか。考えただけでゾッとする。悪い方にばかり考えてはいけない。けど、もしも、あのまま身を乗り出していたら、きっと川に落ちていただろう。川の水は、いつもより増水されてるし、あの子は溺れることになっただろう。そうならなくて良かった。 これで私も安心して帰ることができる。もし、素通りして帰っていたら、きっとしばらく不安だっただろうから。 橋を通りすぎると、二つ目の角を曲がった。もう少しで家に着くと思ったらどっと疲れが出てきた。帰ったらお風呂に入ろう。体も雨の中で冷えてしまったことだし、ゆっくりお湯に浸かってあったまりたい。
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