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止まらない雨
次の日、朝から昨日と同じく雨が降っていた。昨日は、私が帰る頃には雨が止んでいたというのに。今日、また朝から雨が降ってきていた。今日の雨は、しとしとと静かなものだ。今日は、外に出ないで家の中にいよう。こんな日は、ゆっくり家の中で仕事をするに限る。そうと決まれば、まずは朝ごはんだ。今日は、何にしよう。昨日は、ご飯だったから今日はパンにしよう。安直だろうか?
まあ、いいか。誰かが聞いているわけでもないんだから。
カチャッ。
冷凍庫を開けて食パンを取り出すと、次に卵とレタス、トマト、パセリ、ウインナー、そしてバターとチーズを取り出した。ウインナーは、少し切ってそのまま炒める。卵は、少し迷ったけど目玉焼きにした。そうして作業をしていると、セットしておいたパンが焼けた。冷凍庫から取り出した時は、カチカチだったけど今はカリッとしていて温かい。2〜3分トースターでチンしてからバターを塗ってチーズとパセリをのせる。この時、パセリは少しだけ刻んでおく。あんまりたくさんは必要ない。余ったパセリは、サラダに少しのせておく。ドレッシングは、シーザーにしておいた。スープは、どうしようか迷ったが今日は止めておいた。後は、コーヒーだけだ。セットしておいたけど出来ているかな?
ふわっ。
ああ、いい香りだ。ちゃんと出来ていたね。
良かった、良かった。
さあ、最後に仕上げをして居間に運ぶだけだ。
カチャッ。
カチャカチャ。
フゥ、やっと出来た。さっそく食べてみよう。
いただきま〜す。
パセリは、余っていたから使ってみたけどどうかな?
モグモグ。
うーん、チーズの味が強くて分からないけどまあいいか。次は、他の食材で試してみよう。こうしてレシピを見ずに考えるのも面白いものだ。あっ、そう言えばテレビをつけてなかった。何かやってるかな?
カチカチ。
パッ。
なんだか大したものやってないなぁ。仕方ないか。ちょうど食べ終わったし、さっさと片付けて仕事をしよう。そうして、台所で片付けているとインターホンがなった。
ピンポーン、ピンポーン。
「はい。」
急いでインターホンに出ると、そこには私の姉がいた。
「私よ。中に入れて。」
「・・・・・ああ、うん。」
私は、嫌な予感がしたがしぶしぶ中に入れた。そこには、姉の他にもう一人いた。姉の二人目の子供だった。まだ5才という幼さだがおとなしくて落ち着きのある子だ。上の子の方が、落ち着きがない。バタバタ走り回らないが、人のものを勝手に漁る。どきどきしたけど今日は大丈夫なようだ。
「悪いんだけどさぁ。うちの子預かってくれない?今日は、どうしても連れていけないのよ。」
「・・・うん。いいよ別に。」
「本当!ありがとう。助かるわ〜。じゃあ、さっそくよろしくね。」
そう言うと、姉は自分の子供に向き直った。
「いい?お母さん、今日の夕方には戻るからそれまで良い子にしててね?」
「・・・うん。分かった。」
「はぁ、良かったわ。じゃあこれ、おやつだから。お昼はよろしくね。それと、着替えも念のために持ってきたから。」
「・・・・ああ、今日は何時?」
「う〜ん、多分4時ごろね。」
「分かった。」
「じゃあ、行ってくるわね。」
「行ってらっしゃい。」
子供は、寂しそうに見送っていました。
「サヤ、おいで。」
「うん。」
「まずは、手洗いとうがいをしよう。」
私は、姪のサヤに合わせて踏み台を用意した。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう、おじさん。」
バシャバシャ。
ガラガラ、ペッ。
ガラガラ、ペッ。
何度かうがいを繰り返すと、サヤは満足したように手で口をぬぐった。
「サヤ、ちゃんとタオルで拭きなさい。女の子なんだからきちんとしておかないとまわりの子に嫌われてしまうかもしれないからね。」
「・・・・はい。ごめんなさい。」
ふきふき。
「おじさん、出来ました。」
「はい、良くできました。」
私は、サヤを笑顔で誉めた。そのままサヤを居間に連れて行くと、すぐにテーブルの前に座ってしまった。お絵かきでもするのかと思っていたら、ドリルをやろうとしていた。ドリルは二冊あって、ひらがなの練習と数字遊びというものだった。私は、サヤのために飲み物を用意することにした。以前姉から贅沢させないようにお茶かスポーツドリンクにするように言われていた。今日は、少し冷えるので温かいお茶を出した。お菓子は、三時のおやつになってから出そう。私も、姪と一緒に仕事をしようとノートパソコンを持ってきた。姪の様子を見ながら仕事を進めていくと、いつもより良いものが出来たような気がした。やはり、いつもと環境が違うからだろうか?環境を少し変えるだけでいつもより良い仕事が出来た。気が付けば、もう11時を回っていた。時期にお昼だ。サヤは、何を食べるだろうか?
「サヤ、もうすぐお昼だけど何食べたい?」
「・・・・オムライス。中身バターライスが良い。」
「オムライスか・・・。分かった。すぐに用意するからね。」
「うん!」
サヤは、嬉しそうにドリルの続きをやり始めた。台所から見える景色の中には、まだしとしとと雨が降っていた。止むことのない雨にいつもなら寂しさが襲うけど、サヤのおかげでそれはなかった。小さなぬくもりが寂しさを暖めてくれた。ただ同じ部屋で思い思いのことをしていただけなのに・・・。
そんなことを思いながらもオムライスを作り始めた。まずは、ライスから。サヤは、ライスと混ぜれば嫌いな野菜も食べられるので楽なものだ。まずは、野菜を炒めて少し味を付けておく。そして、バターを入れて野菜と一緒にライスを炒める。そのときに隠し味を入れておく。最後に卵を焼いてバターライスの上に被せたら完成。
仕上げは、やっぱりケチャップかな?
ひとつは、デミグラスソースをかけてみよう。これでO.Kだ。さあ、サヤはドリル終わったかな?
「サヤ?ご飯出来たよ。」
「ん?あ、ご飯!」
「さあ、テーブルの上を片付けて。」
「うん!」
サヤは、ちょうど終わったようだった。私が、声をかけると嬉しそうにパタパタと片付け始めた。私は、テーブルの上を拭きながら手を洗うようにサヤに言った。サヤは、元気に返事をして手を洗いに行った。私が、テーブルに料理を並べ終わるとサヤがパタパタと嬉しそうな顔で戻って来た。
「サヤ、用意が出来たよ。さっそくいただきますして食べようね。」
「うん!いただきます。」
カチャカチャ。
パクッ、モグモグ。
ゴックン。
「うん、おいしい!おじさん、おいしいよ。」
「本当?それなら良かった。」
「うん。また、作ってね。」
モグモグ。
「ああ。うん、いいよ。」
夢中で食べる姪の姿を見て、私はホッとした。ご飯が終わるとまたすぐにお皿を片付けた。私は、サヤにお昼寝するのか聞くと、サヤはお絵かきをし始めた。だが、それは長くは続かなかった。サヤは、お腹いっぱいで眠くなって寝てしまった。
そのままサヤを寝かせて、私は仕事に戻った。しばらくすると、インターホンが鳴った。
ピンポーン、ピンポーン。
私は少し慌てたが、すぐに玄関へ出て行った。
ガチャッ。
「なんだ。姉さんか。サヤ寝ちゃってるから静かにね。」
「なんだはないでしょ、なんだは。そんなことより、サヤ寝ちゃったの?」
「ああ、ちょっと前にね。」
「せっかく早く帰ってこれたのに。」
「仕方ないよ。どうする?起きるまで待つ?」
「・・・・う〜ん、そうねぇ。起きるまで寝るわ。ベッド貸して。」
「・・・・・はいはい。そこの奥の部屋が客室だからそこ使って。」
「ハイハイ、分かったわ。」
そう言うと、姉はサヤを連れて客室に入って行った。そのまま居間で仕事をしていると眠くなってきた。
目が覚めると、客室にいた姉とサヤはいなくなっていた。テーブルの上に書き置きがあった。どうやら、帰ったようだ。私は、急に一人になって心細くなってきた。思わず窓の外を見ると、あんなに降っていた雨が止んでキラキラと光っていた。私は、光に導かれて外に出た。そこには、大きな虹がうっすらと出ていた。私は、思わず涙をこぼしていた。
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