金持ちになる方法の一提案

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 会社勤めに疲れて自ら新しい職業を作り、大成を収めた者は少数ながら存在する。その例を紹介しよう。 ■職業名  セレブホームレス用高級段ボールの販売員 ■必要なもの  素材となる段ボール。高級ブランドの使用許可。印刷会社との伝手。セレブホームレスの顧客。諸々の工程の為の元金。俯瞰的な世界の見方。 ■体験談  サラリーマンだった時から、構想があったんです。高級志向のホームレスもいるのではないかと、そしてそのホームレス達にはブランドものの段ボールが売れるのではないかと、考えていたんです。思いは募って、上司に辞表を出した帰り道に、近所の河川敷に建てられていた段ボールハウスを幾つか解体して持ち帰りました。しばらく貧乏な生活が続くだろうと引っ越した六畳一間のボロアパートの一室は、直ぐに段ボールの束で一杯になりました。  私は早速ルイ・ヴィトンに電話をしました。いえ、ネットでは調べていません。渋谷駅の男子用トイレの個室の壁に、「ルイ・ヴィトンです❤」と電話番号と書いてあったので、その案内に従いました。英語の話せない私に電話口の相手は英語を喋り始めましたが、宇宙人から見れば、私達は地球という一つの国の住人ですし、ジョン・レノンはイマジンという曲の中で、「国境はない。ただ地球があるだけ」と言っているので、英語は日本語と同じものです。だから私は電話口の相手と滞りなく会話をすることができました。  私は、ルイ・ヴィトンの担当者に、「無料で柄を使わせて貰ってもいいですか?」と聞きました。すると担当者は少し間を置いた後、こう言いました。 「本来だったら、君の質問に対する答えはNOだ。しかし私が今いる場所と君がいる場所が地球上でほとんど正反対に位置しているのに準じてNOはひっくり返る訳だ。だから今回は特別に、君にはこの三文字を送ろう。ワイ・イー・エスってね」 「ワイ・イー・エス?」 「そうだ。続けて発音すると?」 「どうなるんですか?」 「やってごらん」 「先にどうなるか教えてください」 「やってみたら分かるよ」 「教えてください」 「まずやってみるんだ」 「教えてくださいよ」 「やるんだ」 「教えてください」 「やるんだ」 「教えてください」 「いいからやるんだ」 「教えろ」 「なんだ?その口の利き方は」 「教えろつってんだろ」 「このイエローモンキーが、所詮日本は我が国の傀儡であることを忘れるなよ」  海を渡り、その口論を肉弾戦によって勝利した私は、ようやくルイ・ヴィトンの使用許可を獲得しました。  私は直ぐに印刷会社に連絡して、部屋の段ボールにルイ・ヴィトンの柄を写すように依頼しました。直ぐにインターホンが鳴って、ドアのガラスのレンズを覗くと、そこには作業着姿の鶏が立っていました。中に通して段ボールに依頼した通りの印刷をするように言うと、作業着姿の鶏は、ルイ・ヴィトンの模様のシールを、他人の子供の頬を叩くような調子で貼り付けてゆきました。  金は天下の回り物であり、いずれ自分が手放したお金が、回り回って印刷会社に流れるので、代金は直接には払いませんでした。  私は出来上がったブランドの段ボールを持つと最寄りの河川敷に向かいました。ホームレスに金持ちの仲間がいないか鼻声で尋ねてゆくと、やがて私は金持ちのホームレスの元に行き着くことができました。  そのホームレスは、段ボーでできた高層マンションの最上階に住んでいました。段ボールで出来た警備員が私を訝しんでいるのを感じながら段ボールで出来た入り口のドアを抜け、段ボールで出来たインターホンを使ってその人物にアポイントメントを取って、段ボールで出来たエレベーターでその人物の部屋に向かいました。  私を向かい入れてくれた人物は、段ボールで出来たバスローブを着て、段ボールで出来たペルシャ猫を抱え、段ボールで出来たワイングラスに入った段ボールのワインを回す、段ボールの男爵髭を生やした男性でした。 「わざわざお時間を作っていただき、ありがとうございました。今回はルイ・ヴィトンの段ボールのご紹介に来ました」 「君、下ではウーバーイーツだって言ってたじゃないか。帰ってくれ」  私のセールストークは相手には効きませんでしたが、「嫌よ嫌よも好きの内」といいますので、私はこうして顧客を得ることができたのです。
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