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厚い雲に覆われた空から、パラパラと雨の雫が降り注ぐ土曜の夜。
今までと同じように、雑居ビルの階段を降りてメタルバー・サンダー&ライトニングの重いドアに体重をかけて開く。
しおんが中を覗き込むと、カウンターの中にいた和馬はすぐに気付いて視線を合わせた。そして、少し照れくさそうに微笑んで手招きをしてくれる。
しおんも笑顔で頷いて、彼の立つ目の前のカウンター端のスツールに腰掛ける。
「いらっしゃい」
彼はそう声をかけておしぼりを置くと、すぐにグラスを手に取ってジンライムを作ってくれた。まだオーダーもしていないのに。
「先週、ありがと」
一週間前、初めて彼の部屋に泊まった。
出会ってから2ヶ月。彼が自分を想ってくれていることには気付いていた。しおんの方も、初めて彼に会った日から恋に落ちていた。
進展しないままの2ヶ月は、それでもほんのり甘い日々だった。自分の気持ちに気付かない彼に焦れた日もあったけれど、それもどこかで楽しんでいた。
しおんの礼を聞くと、彼は一瞬目を泳がせる。2ヶ月の間足踏みをしていたのに、一夜でゼロまで近付いた距離。その時のことを思い出して照れているのだろう。
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