無糖炭酸水 *

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 * * * 「――ばかっ。清司の、……ばかっ」  はい。  助平で申し訳ありません。  背を向ける香枝に、おれはペットボトルを差し出す。――彼女は炭酸が好きなのだ。でもダイエットのためにと、甘いのは飲まずに常に無糖炭酸水。おれからすれば甘くない炭酸なんてなにしに飲むのか意味が分からない。酒で割るためくらいにしか買う用途のない飲み物かと思っていたら、意外なところにユーザーがいたもので。  後ろ姿のまま香枝は炭酸水を受け取り、ぱきぱきと開く。――ふと、学生時代に、非力をアピールするために、わざとペットボトルを「開けられないの」と言ってきた女がいたことを思い起こす。彼女、今頃なにやってるだろう。  おれの彼女はそんな女々しいことは言わずに自力で開ける。自分のことは自分でしたがる女だ。
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