いちごパフェ

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 おれは彼女の眠りを妨げることはせず、そのままの流れに任せた。  思い出すのは……、出会った頃の、大学生時代の彼女だった。  * * *  彼女と出会っていなかったら間違いなくあのバイトは辞めていた。  焼肉屋のアルバイト――しかも炭火焼肉のバイトは、結構大変だ。はっきり言って、時給八百円台の仕事とは思えない。その値段なら探せばもっと楽なバイトなど絶対に見つかる。町田のバイトの相場がだいたい九百円だが、それが不満なら下北や新宿に足を伸ばし、千円台の飲食のバイトを探すなどいくらでも手はある。――彼女と友達時代に頻繁に会っていた頃。このバイトの割の合わなさをふと漏らしてみたところ、バイト経験の少ない彼女には怪訝な顔をされるだけに終わったけれども。  客が来るたびに炭と網を取り替えるのも面倒だし、テーブルの汚れも半端ない。油や焼肉のタレで汚れまくっているのだ。後片付けの水入れや炭抜きの処理も大変だし、鉄板のほうがどれだけ楽だったかと思う。おれが入る前にバイトが何人も辞めていったと聞くが、納得だ。  しかも、お会計が究極に面倒くさい。毎度お会計のたびに、数値化されたメニュー番号をすべて打ち込むのだ。客の『早くしろ』と言わんばかりのプレッシャーを受けながら。……せめて、最後に全部打ち込むんじゃなく、途中まで卓番とメニューをレジに記録できていたらどれほど楽だったと思う。
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