いちごパフェ

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 おれが新人の頃の教育担当は彼女だった。彼女は常ににこやかに、親切に丁寧に教えてくれた。忙しいときにもそのペースを変えないので店長の重野(しげの)さんに怒られることもしばしだった。中の肉切るおっさん、早瀬(はやせ)さんや、スープ作ってる今岡(いまおか)さんには可愛がられてはいた。そういや、辞めるときにママさん(オーナーの奥さん)からピアスだかを貰ってたな。  ともあれ、周りのみんなの支持を集めるのが彼女という存在だったが、そのうちに潜む影に気づかぬほどおれは鈍くはなかった。おれは彼女と出会う一年前に手痛い失恋をしたばかりだったため、新しい恋に進むのに躊躇していたというのもある。――出会って即彼女を(マックに)呼びつけておいて言うのもなんだが。  おれの両親はおれと妹が小さい頃に離婚している。だからというか、ひとのなにかしら背負うものに敏感なのだ。暗い過去や家庭環境を背負う人間特有の空気感など漂えばすぐに見抜ける自信がある。それは、たとえば、誰もが共有する明るい家族の思い出話に疎かったり。ふとした瞬間に虚脱した表情を見せていたり、――と(勿論、原因は退屈や眠気などのためではない)。
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