いちごパフェ

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「――れ。清司……」残念なことに。現在、現実世界の彼女は目を覚ましてしまった。もうすこし見ていたかったというのに。「寝てた? あたし、寝てた?」寝そべっていたわけでもないのに急いで髪を整える仕草をする彼女が可笑しくて、おれは、ちょっと笑って「そ」と答えた。 「あっちゃあ……。ごめんね。せっかく清司と会ってるのに、あたしったら……」 「いいよ」とおれは頭を振る。「おれ、香枝の寝顔見てるの好きだから」 「……」 「照れると黙るのな」おれは長いスプーンを久々に使う。すると、まだ頬を赤らめた香枝が覗き込み、「――あれ。清司。いちごパフェ全然減ってないじゃん」  気づかれたか。  過去への夢想ときみのことに夢中で、甘さを貪ることを忘れていた。  きみの寝顔以上に甘いものなんてこの世にはないから。
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