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自分でオーダーをしようとする彼女の手からメニューを奪い取り、おれは鶏ももの塩とホタテの塩とハラミの塩――塩ばっかだな、と思いつつ頼んだ。ライスの中(ちゅう)のおかわりも忘れずに。
「なによ。あたし自分で頼もうと思ってたのに」
とでも言いたげな目でおれのことを見てくる。すこし頬を膨らませて。――就職して丸二年近くが経つが。社会人になってからの一年間の重みは、例えば小学四年生が五年に進級するだけの一年間とはまったく意味が異なる。
それは、深くて、長くて――社会の不条理だとか人間の優しさだとかを、痛烈に、体感する。
おれは、記憶している。四月に、香枝が、可愛い後輩が入ってきたの、ときゃっきゃと嬉しそうに言っていたのを。社会人二年目のおれらからすれば、ついこないだまで大学生だった新社会人など、子どもみたいなものだ。
おれは、想像する。
きっと、男であるそいつらは、香枝に教えてもらうことを役得だと思っているに違いない。
もともと可愛らしい外見をしている香枝は、おれとつきあうことで、その美しさに磨きがかかったのだから。
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