本編・野間清司/炭火焼肉 *

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 香枝は、おれと出会った頃、誰も信じられないって目をしていた。もったいない、というのがおれの香枝に対する第一印象だった。  育てたのはおれだ。他の誰でもない。  他の輩からの不躾な視線を感じると、おれは優越感ではなく、怒りを感じるのだ。余裕が無い証拠なのだろう。  おれは、香枝のすべてを知っているわけではない。  そもそも、学校が別だった。バイトが一緒だっただけという関係性だ。一年近く、毎日会ってはお茶ばかりしていたが、その頃、彼女はおれにこころを許していたわけではない。……因みにその後の数ヶ月間の記憶ならばほとんど無い。学校の授業と試験勉強とでくそみそに忙しかった。  香枝とは同時期(一昨年の四月)に同業他社に就職をした。就職してからも、別々に過ごす時間のほうが、圧倒的に長いのだ。月から金まで仕事をしている。休出も、度々。  会社で働くということは価値観の劇的な変化を伴うもので、それを機に別れてしまうカップルも珍しくはない。おれも香枝も、一年目は学生の頃よりも喧嘩が増えた。半年を過ぎた頃から、互いを思いやる余裕がすこしずつ出てきた。
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