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『ご飯、ちゃんと食べてる?』
『週末、泊まりに行っていい? なにか美味しいもの作ってあげる』
月百時間以上残業をしていた頃。おれのこころの支えは、間違いなく香枝からのメールや電話だった。
会社で眠気で朦朧としているときに、彼女の裸体が思い浮かんだことさえあった。
はやく会って――抱きたい、と。
「お待たせしましたー。お先に鶏もも肉の塩味とハラミの塩です。ライスの中をご注文のお客様は――」
思考を破るのは店員の声。おれは挙手した。「あ、おれです」
「お待たせいたしましたー。ホタテのほうですが少々お待ちください」
「あ、いえ、どうぞ、お構いなく」
女の店員が去ると、香枝が何故かふくれっ面でおれのことを見ていた。
「なんだよ」
「――清司。気づいてないの? さっきの店員さん……」ここで香枝が髪を耳にかけ、秘密の話をするときのようにおれに顔を寄せる。「話しかけるのが必ず清司なの。上目遣いでちらっちら見て……」それ以上を言うのが躊躇われたのか。香枝は言葉を濁すけれど。
――なんだ。
嫉妬するのは、お互いさまということか。
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