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結婚を意識していないわけではないが。しかし、香枝の前でおれが結婚を匂わせる発言をするのはこれが初めてだった。初めてがこんな場所でいいのか。近所の焼肉屋。もっとTPOを考えるべきだったろうに――。
「そうだね。一人か二人かな」
あまり深く考えない様子で香枝が答えた。「一人は欲しいけど。二人は、……あたし、頼れる親が近くにいないから、二人も育てられるか自信がなくって……二人育てるのってどんな感じなのか、母親見ててもなんか、想像つかないし……」
不安になるのも無理はない。
出身は富山。飛行機の距離だ。彼女の実父は自殺している。母親は子どもの頃に再婚。父親の違う妹がひとりいる。妹との関係は良好らしいが、話を聞く限り、決して両親とは仲睦まじいとは言い難い。そもそもが頼れる関係にないということだ。
「――でも。おれの母親が電車一本で来れる距離にいる。車でも来ると思うよ。子ども好きだからいくらでも世話焼いてくれると思うぜ」
それを聞くと、香枝は急に目を見開き、「やっだあ! 清司となんて……」
と、言葉を切って俯いてしまう。おれが皿に置いた焼け上がった肉を見つめたまま。
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