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「うち――清司も知ってるとおり、結構家庭が複雑で。あたし、物心つかない頃から父親が違うことでいじめられたりしたし、妹と父親が違うなんてことも、妹にも言えずにずっと隠し続けてきたの。近所の子に言われたから親に聞いてみたら、佐和(さわ)には黙っておけって言われるし。母も仕事してるから忙しいし、家族で集まれるときってなかなかなくって。だから――
家族みんなで行く焼肉が特別だったの。ほんっと、ありえない量を食べるんだよ。四人で二万円とか余裕で超えるんだよ? カルビロースハラミタン塩ホルモンを頼むのは当たり前。お肉を十種類以上は頼むし、スープにクッパに石焼ビビンバも食べるし、お会計のひとがびっくりして毎回大量に食べるあたしたち一家のことを覚えてた。
それが当たり前だったから。――よく、焼肉屋で男の子でビール頼んでご飯食べない子っているじゃない。あたしあれにすごくびっくりした」
「ライスがないと落ち着かねえよな」
「――あたしも。ねえ、清司」
ここで彼女が立ち止まる。
からだごと振り返ると、おれのことを真正面から見据え、
「……子ども、欲しい?」
それは、一生かけて手に入れたいくらいの微笑だった。
恥ずかしげに。上目遣いで。照れている彼女を――
いますぐ、愛したい。
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