1.

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

1.

   4月中旬の朝―――  普段の化粧より太めのアイラインを引いて、パステルカラーの薄手ニットの上にカーディガンを羽織る。髪の毛はふわりと後ろでまとめた。  バタバタと小走りで支度をし、最後に東側の窓際にテーブルを寄せ、自宅のパソコンの電源を入れる。朝日の自然光が肌を一番美しく見せてくれる。お悩みの大人ニキビも、シミも目立たない。  インターネットを開いて指定のURLを打ち込み、会社で使用しているシステムにログインする。業務に必要な資料を開いた上で、別画面を開き、リモート会議用のホームページにアクセスする。これで始業前の準備はOKだ。  最近は世界的に流行した感染症のおかげで自宅からのリモートワークが主流となっている。しかし自宅から一歩も出ないというのに、以前と同じような支度をするのが大変面倒に感じる。せめて化粧さえなければ、もっと睡眠が取れるのに。 (画面越しだと顔が地味に見えるのよね。とはいえ化粧を濃くすると、さらに支度に時間が掛かるし…)  ぶつぶつ言いながら、まだ開始時間まで余裕があったので、軽くネットニュースをチェックする。すると、気になる記事が目に留まった。  「なになに?リモートワークで化粧をしているように見せてくれるアプリがある?」    興味をそそられ、早速アプリを検索しダウンロードする。アプリを開いたら自身の顔をいろいろと加工してみる。  「いいじゃーん。これで美肌モードにすれば……おお!完璧!」  思った以上に出来栄えが良い。顔色は明るくなって、肌荒れも大人ニキビも薄く見える。朝日に照らせば消えてしまうくらいだ。このアプリ作った人、天才。  試しに翌日のリモート会議でアプリを使用し素顔で出席してみたが、誰も私が化粧をしていないことに気が付いていないようだった。  それ以降、すっかりアプリにハマってしまった私は、化粧をやめてしまった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!