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「じゃあ、小学生が新しい星発見かみたいなニュースの、おめでとうございます、将来が楽しみです、のコメントのバッドは?」  伊織さんのハサミに合わせてパラリ、と束になって落ちていった洋子の一部が、床に散らばった。 「んー、人のことどうこう言ってないでお前が頑張れ?」 「うわ、伊織さん、それきっつ」  想像を遙かに越えた伊織さんの発言に、洋子はつい笑ってしまう。 「洋子ちゃんが聞いてきたから一生懸命考えて答えただけでしょう?」  もー、とわざとむくれたような声を出しながらも伊織さんの手は流れるように動いて、洋子の髪を短くしていく。洋子の頭はどんどん軽くなる。 「このことについての私の思考の限界は、あえてバッドを押している人もいるんじゃないってことです。何ていうか、グッドばっかりじゃ駄目だ、みたいな気持ちで」  一度ハサミを置いた伊織さんは洋子の肩にかかった髪を払うと、遠くにいたアシスタントの子に何か指示を出してから、すぐに洋子に向き直る。 「そうね、意見が片方に傾き過ぎないように俺がバランス取ってやる、みたいなやつはいるかもね。何にでもいちゃもんつけたい気分の人もいるだろうし。いいじゃない、みんな違ってみんないいってやつよ」  そう言って再びハサミを手にした伊織さんは、今度は先ほどよりもゆっくりとした動作で丁寧に手を動かした。 「そもそも、そういうサイトのコメントに反応する人とかそれを見てる人とかって限られてるっていうか、ごく一部の顔の見えない人間でしょ?何考えているかなんてわかんないって。よし、乾かすとちょっと上がるとして、長さ、これくらいで良い?」 「んー、それはわかってるんですけど。あ、長さはそれくらいでいいです」  洋子が気にしているのは否定的なコメントや反応が多いことではない。洋子から見るとどんなに無難で反論しようのないコメントにも、必ず否定的な人間がどこかにいる、というところだった。 「前髪は?」 「揃える程度で」 「了解」  コメント欄につくグッド、バッドを眺めていると少し怖くなるのだ。  全員が納得して出来ることなんて、この世に1つもないということを、改めて突き付けられているようで。
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